研究領域 | 植物新種誕生の原理―生殖過程の鍵と鍵穴の分子実態解明を通じて― |
研究課題/領域番号 |
16H06471
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
木下 哲 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 教授 (60342630)
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研究分担者 |
赤木 剛士 京都大学, 農学研究科, 助教 (50611919)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 生殖隔離 / 胚乳 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
植物の生殖過程では、「他の植物種と交雑することなく自らのゲノムを維持するシステム」が生殖障壁として機能している。このシステムは、受精に至る多段階に配置される「鍵と鍵穴」の分子認証の総体として捉えることができる。興味深いことに、受精前の分子認証を突破した場合でも、受精後の胚乳において、極めて鋭敏な異種ゲノムを感知する分子認証システムが配置されている。ここでは、両親ゲノムの塩基配列レベルの違いのみならず、可塑性の高いエピジェネティックな制御機構が重要な位置を占めている。本研究計画では、植物の新種誕生原理の解明のため、(1) 受精後の胚乳の生殖障壁をエピジェネティックに誘導するDNA脱メチル化の役割と、(2) 受精後の胚乳が自らを崩壊させることにより異種ゲノムを排除する機構を明らかにすることを目的とする。これまでの我々の研究により、FACTヒストンシャペロンSSRP1が関与するDNAの脱メチル化により、低分子RNAが産出されることが明らかになりつつある。こうした低分子RNAは、細胞や組織間を移行し、胚での標的ゲノムを制御することを示唆するデータが得られている。また、受精後の胚乳では、ポリコーム複合体構成因子による発生進行プログラムと、細胞周期の二つの要因により、自身を崩壊させる異種ゲノムの認証機構が浮かび上がってきている。これらは「低分子RNA群と標的ゲノム」や「複数の転写因子複合体とその標的遺伝子」の領域キーワードに集約され、異分野融合ブレークスルーテクノロジーを活用した新種誕生原理の解明に必要不可欠である
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に照らし合わせ、概ね順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 受精後の胚乳の生殖障壁をエピジェネティックに誘導するDNA脱メチル化の役割 メス側の生殖細胞である中央細胞では、トランスポゾン(TE)配列を中心にゲノムワイドなDNA脱メチル化がおこる。このゲノムワイドなDNA脱メチル化はインプリント遺伝子の活性化と、TEの活性化を介した低分子RNAの産出に働いていることが明らかとなってきた。本研究では、シロイヌナズナとイネを用いて、初期胚・胚乳の低分子RNAとその標的となるDNAのメチル化の変化をゲノムワイドに解析する。シロイヌナズナ変異体、イネCrispr/Cas9変異体の比較解析から、倍数体・種間交雑までの包括的解析により、DNA脱メチル化が新種誕生原理に果たす役割を明らかにする。 (2) 胚乳における生殖障壁の分子機構の解明 種間交雑と倍数体間交雑では、胚乳に共通した発生異常が観察されているが、両者の違いは明らかではなかった。我々はこれまでに、イネを用いた詳細な比較解析から、種間交雑は胚乳発生進行のみに影響し、倍数体間交雑では発生進行に加えて、胚乳の細胞周期が変化することを明らかにした。胚乳における生殖障壁では、正逆交雑において相反する表現型が表れることより、インプリントされたポリコーム複合体構成因子が着目されてきた。種間交雑では、会合するポリコーム複合体のアミノ酸配列に違いがあるため、領域キーワードの「複数の転写因子からなる複合体とその標的遺伝子」に代表されるケースと捉えることができ、複合体の会合・活性状態が標的遺伝子発現に影響することが考えられる。構造生物学とエピゲノム科学との連携により、どのアミノ酸の種間差異がポリコーム複合体の会合と、下流の標的遺伝子のエピジェネティクス状態を介して生殖障壁に寄与しているかを明らかにする。
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