計画研究
沈み込むプレート境界周辺の多様な地震活動として,茨城県南西部のフィリピン海プレートの上部境界において,繰り返し地震活動が活発になること,それに同期して直上の地震波減衰が大きくなること,さらに数ヶ月遅れて上盤プレート内で地震が誘発されることを明らかにした.これら一連の活動の時空間変化は,スロースリップの発生によってプレート境界の水が上盤側に排出されていることが原因であると考えられ,スロースリップによる水の移動を示唆する結果を得た.また,豊後水道に隣接する四国西部の陸域定常地震観測点に臨時観測点を加えた連続地震波形記録から遠地地震波形を切り出してレシーバ関数を求め,この遠地地震波形記録とともにデータベースの構築を進めた.求めたレシーバ関数の振幅分布から,深部低周波地震(微動)の活動はプレート上面構造が不明瞭となる領域で発生しており,低周波微動発生域の南限では地震波速度の異方性が急激に変化することを明らかにした.電磁気学的手法を用いた観測としては,昨年度に引き続き,電話回線を用いたネットワークMT観測を継続した.予察的に2ヶ月間のデータを用いて周波数応答関数を求め,3次元インバージョン解析によって,暫定的な地殻内比抵抗構造を求めた.その結果,中部地殻に集中的に電気抵抗の低い領域が存在していること,またプレート境界面に沿う流体の存在の可能性を示した.海域観測では,昨年度に不具合が生じた海底電位差磁力計(OBEM)3台について必要な新たな部品を購入し,不具合に対処した.さらに2台のOBEMを整備して,神戸大学練習船深江丸を用いて昨年度に設置したOBEMを回収するとともに,H29年度末時点で 8観測点において観測を継続している.一方,回収したデータについて,初期的な解析を始めた.トラフ付近の複雑な海底地形による電磁場の歪みを考慮する必要があることが明らかとなり,手法の開発も進めている.
2: おおむね順調に進展している
地震学的構造に関する研究では,フィリピン海プレートの沈み込みに関する大局的な構造から,特にスロースリップが6~7年周期で発生している豊後水道周辺域でのプレート境界面周辺の詳細な構造までを詳細に把握するための研究を進めており,着実な成果を挙げている.大局的構造では,スロー地震から通常の地震まで特徴的な活動を示す,茨城県南西部に沈み込んだフィリピン海プレートの境界面周辺に着目し,構造および地震活動の時間変化から,プレート境界周辺の水の動きと多様な地震の活動との関係を明らかにした.また,陸域地震観測網の記録から得られるレシーバー関数において,沈み込むフィリピン海プレートの構造不均質に対応する,プレート境界面における振幅の空間分布を確認した.海域地震観測記録へのレシーバー関数解析の適用については,高解像度の構造変化を抽出する手法をについて開発を進めている.電磁気学的構造に関する研究では,プレート境界周辺における水の分布を把握するため,豊後水道周辺域における海域から陸域までの観測網の整備を進めている.陸域では,電話回線を用いた長基線測定観測網の整備を継続して進めている.豊後水道沖合いの海域でも,昨年度に引き続き,観測機器の不具合に対処しつつ,観測点を増やして多点観測を継続している.海域・陸域ともに良好な記録の取得が確認され,初期的な構造解析を始めている.沈み込み帯の構造的特徴が豊後水道と似ているニュージーランド・ヒクランギ沈み込み帯での国際共同研究を実施している.2017年10月から2018年2月にかけて,大規模な人工震源構造調査を実施することに成功し,プレート境界周辺の構造について,高解像度で把握することが期待される.また既存の観測データを用いた多様な地震活動の把握も進められており,地震活動と構造との関係について詳細な比較検討が可能となりつつある.
プレート境界周辺における地震学的3次元構造の特徴に関して,スロー地震に加え,通常の地震活動を含めた多様な地震活動と構造不均質との関係を明らかにし,その発生メカニズム解明に向けたモデルの構築を目指す.特に,プレート境界面周辺域の詳細な構造については,6~7年周期でスロースリップが発生している豊後水道に関して,隣接する四国西部に設置された陸域基盤的定常観測点に加え,本研究領域A01班が設置した起動観測点も対象として,遠地地震波形記録とともにデータベースの拡張を図る.このレシーバー関数解析の結果を参照し,地震波変換効率の変化ならびに方位依存性の空間分解能を向上させる.陸域・海域地震観測データから,プレート境界周辺における多様な地震活動の検出方法を高度化し,火山を含んだ沈み込み帯の大局的な構造・応力場を明らかにし,スロー地震発生メカニズムの解明を目指す.一方,平成31年度に予定されている四国西部陸域構造調査,および平成32年度に予定されている海域人工震源構造調査に関して,既存の観測データ・調査結果を評価し,プレート境界域の詳細な構造把握のための調査仕様の検討を継続する.陸域調査について,実地踏査による具体的な観測点配置を策定する.海域調査については,船舶を用いた実際の観測実施要領について検討を始める.電磁気学的手法では,豊後水道周辺域において,海域・陸域を合わせ,統合的な観測網の構築・整備・維持を進めるとともに,得られた観測記録の予察的な解析を行う.陸域観測網では,四国西部での観測点において不具合が認められる観測点において,新しい機材の導入を進めながら整備を行い,観測網の充実を図る.海域観測では,海底電位差磁力計の繰り返し観測を継続し,豊後水道沖合い周辺における多観測点において記録の取得を進める.海域における海底の3次元形状を考慮した解析手法を適用し,予察的な比抵抗構造解明を図る.
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (52件) (うち国際学会 39件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (2件) 学会・シンポジウム開催 (2件)
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