研究領域 | スロー地震学 |
研究課題/領域番号 |
16H06475
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
望月 公廣 東京大学, 地震研究所, 准教授 (80292861)
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研究分担者 |
藏下 英司 東京大学, 地震研究所, 助教 (00302620)
三浦 誠一 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門, 調査役 (00371724)
汐見 勝彦 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 地震津波火山ネットワークセンター, 総括主任研究員 (20500375)
中島 淳一 東京工業大学, 理学院, 教授 (30361067)
上嶋 誠 東京大学, 地震研究所, 教授 (70242154)
市原 寛 名古屋大学, 環境学研究科, 助教 (90553074)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 沈み込み帯 / プレート境界 / スロー地震 / 地震波速度構造 / 地震波減衰構造 / 比抵抗構造 / 間隙水 / 豊後水道 |
研究実績の概要 |
地震学的構造の研究としては,2019年11月に四国西部の陸域において火薬発破を震源とした地殻構造探査を実施し良好な記録を得た.深部地殻内や沈み込むフィリピン海プレートからの反射波と考えられる明瞭な後続波が見られ,フィリピン海プレートに対応すると考えられる北傾斜の反射面を確認した.四国東部の陸域定常観測点におけるレシーバー関数から海洋モホ面の傾斜方向の分布を推定し,香川・徳島県境付近にモホ面のわずかな高まりがあること,さらに深部低周波微動活動はこの局所的な高まりを避けるように発生していることを明らかにした. 東北地方の26地域を対象に火山性の低周波地震のメカニズム解推定を行った結果,東北沖地震以降顕著に活発化している蔵王の低周波地震のメカニズム解が,東北沖地震による静的応力変化と似たモーメントテンソルを示すことを明らかにした.この結果は,低周波地震の活動変化が応力場の変化に敏感であることを強く示唆している. また,2020年度に実施が予定されている豊後水道周辺域での海域人工震源構造調査について,測線案や観測仕様に関する検討し,漁業関係者との調整を行った. 電磁気学的構造の研究としては,2016年に開始した四国西部と九州東岸でのネットワークMT長基線電場観測を継続するとともに.得られた3次元比抵抗構造と地震波減衰構造とを比較して,スロースリップ域のプレート面直上で構造の対応関係(高比抵抗,低減衰)があることを確認した.また,従来のMT法データのコンパイルのための準備を開始した.海域での電磁気観測では,2018年度までに取得した日向灘の12地点における海底電位差磁力計データを解析し,予察的に地下の比抵抗構造を推定した.その結果,観測海域西側の九州パラオ海嶺が沈み込む領域において,比抵抗異常が存在する可能性が高いことが示された.2020年3月に,この付近の3地点において観測を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スロースリップが6~7年周期で発生している豊後水道周辺域でのプレート境界面周辺の詳細な構造を詳細に把握するための研究を進めており,地震学的および電磁気学的構造の解明について,着実な成果を挙げている.2019年11月に四国西部の陸域で実施した火薬発破を用いた地震波構造調査では良好な記録の取得に成功し,このデータ解析によってプレート境界面上の微動発生域周辺の詳細な構造の把握が期待される.陸域地震観測網の記録から得られるレシーバー関数については観測地震波形データの充実化を進めており,スロー地震の活動分布とプレート境界面の形状に相関があることを確認した.本研究領域A01班の観測データも統合して解析を進めることにより,さらに空間解像度を向上させた検討が可能となる.また,陸域地震観測データを用いて地震波減衰構造についても研究を進めており,スロー地震発生域周辺の環境が明らかになりつつある.プレート境界におけるスロー地震との対比として,火山性微動活動の分布や発生メカニズムも明らかにされ,スロー地震発生環境についての理解が進んでいる. 電磁気観測については,陸域,海域ともに観測網を維持しつつ,さらに新たな観測点を構築して観測を継続している.海底地形の凹凸による影響を考慮に入れた新しい解析手法を導入することにより,詳細な3次元比抵抗構造が得られつつある.ここで得られる比抵抗構造と,地震学的構造,特に地震波減衰構造との比較検討を行うことによって,スロー地震発生域周辺の環境について,包括的な理解が進むと期待される. 2020年度には,8月から9月にかけて,日向灘・豊後水道周辺海域において,大規模な人工震源構造調査を実施する予定である.全波形インバージョン解析といった先端的解析手法の適用によって,高解像度で安定した構造の把握を目的として,最も有効な調査とするべく調査仕様の詳細な策定を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
地震学的構造の研究としては,2020年8月から9月の時期に,豊後水道周辺海域において エアガンと海底地震計を用いた人工震源構造調査を実施する予定である.ここで取得されたデータを用いて構造解析を実施する.一方,2019年度に四国西部の陸域で取得した地殻構造探査データについては,これまでに実施されてきた既存地殻構造探査データとの統合解析を実施する.ここで得られるスロー地震発生域におけるプレート境界面の形状や境界面近傍の構造不均質と,本領域A01班でモニタリングされるスロー地震活動と対応させることによって,プレート境界面上のすべり特性を規定する地下構造異常の特徴を把握する.陸域地震観測については,四国西部周辺の定常観測点ならびに本研究領域A01班による機動観測点を対象としてレシーバー関数データベースからプレート詳細形状を求めるとともに,構造探査結果との比較検討を行う.また,フィリピン海プレート上の低周波地震発生域の不均質構造を解明するために,地震波のスペクトル比を用いて地震波減衰の空間変化を明らかにする. 電磁気学的構造の研究としては,陸域観測網では,四国西部および九州東部でのネットワークMT観測を継続するとともに,既存の広帯域MTデータとの統合を進める.また,観測データの感度検定を行い,得られた構造の確からしさや構造変化の検知可能性を検討する.海域で取得したデータについては,海底地形を考慮したインバージョン解析を進めることにより,三次元比抵抗構造を推定する.2020年3月に投入した海底電位差磁力計を回収し,解析を進める.このデータと2018年度までの海底および陸域の観測データを統合し,豊後水道周辺の広域にわたる三次元比抵抗構造を解明する.
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