研究領域 | スロー地震学 |
研究課題/領域番号 |
16H06476
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
氏家 恒太郎 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (40359188)
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研究分担者 |
片山 郁夫 広島大学, 理学研究科, 教授 (10448235)
森 康 北九州市立自然史・歴史博物館, 自然史課, 学芸員 (20359475)
WALLIS R・Simon 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (30263065)
橋本 善孝 高知大学, 教育研究部自然科学系理学部門, 准教授 (40346698)
谷川 亘 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 高知コア研究所, 主任研究員 (70435840)
堤 昭人 京都大学, 理学研究科, 助教 (90324607)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 地質学 / 石英充填剪断脈 / 蛇紋岩メランジュ / 曹長石化 / ブルース石 / アンチゴライトマイロナイト / 摩擦特性 |
研究実績の概要 |
東九州の四万十付加体、西彼杵半島及び野母半島の長崎変成岩類、四国の三波川変成岩類を対象に、スロー地震の地質学的描像構築のための地質調査に着手し、あわせて室内分析・実験用試料を採取した。四万十付加体からは厚さ60 mほどの石英充填剪断脈の濃集帯を見出し、剪断脈は高間隙水圧下で逆断層、正断層、双方の運動により形成され、圧力溶解クリープと交互して発達することを明らかにした。長崎変成岩類からは蛇紋岩メランジュにおいて剪断センスが首尾一貫して逆断層センスを示すことを明らかにし、メランジュマトリックスと泥質片岩クラストの間に曹長石化で特徴づけられる反応帯を見出した。三波川変成岩類からはブルース石がウェッジマントルに幅広く分布すること、超塩基性岩体と沈み込んだ岩石との境界に沿って100 m以下の幅を持つアンチゴライトマイロナイト帯が分布することを明らかにした。 スロー地震の発生領域に分布する可能性の高い粘土鉱物の摩擦特性を二軸摩擦試験機により調べ、含水条件下において摩擦の速度依存性は弱くほぼニュートラルな性質を持つことを明らかにした。回転式中-高速摩擦試験機に、間隙水圧を一定速度で加圧・減圧することのできる機能を付加した。この実験システムを用いて、南海トラフ巨大分岐断層物質、コスタリカ沖沈み込み帯インプット物質などについて、間隙水圧下における摩擦特性と有効垂直応力の関係を詳細に調べることを目的とした実験を開始した。熱水摩擦・透水試験機を製作し、試運転を実施した。熱水摩擦・透水試験機により透水試験を実施するための予察的研究として、常温摩擦試験機を用いた摩擦透水試験システムを構築し、水を間隙流体として用いた摩擦透水実験に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
観測班から得たスロー地震に関する情報(断層すべりメカニズム解、高間隙水圧の発生)を参照し、スロー地震を反映している候補であると考えられる物質、変形構造を見出すことが出来た。変形構造のうち石英充填剪断脈に関しては、幾何学的形状・増加すべり量計測・石英のカイネティクスを用いた反応析出時間の算出にも着手しており、観測班が見出しているスロー地震の発生間隔との比較に向けた研究が進んでいる。また、ウェッジマントルにおける水収支・強度・流体移動を明らかにするうえで鍵と予想される鉱物、変形岩、反応帯を見出すことも出来た。班内及び他班の研究者との連携・交流も良好で、良好に地質学的研究が進んでいる。 実験的研究に関しても研究は円滑に進んでいる。二軸摩擦試験機を用いた含水条件下での粘土鉱物の摩擦実験は予定通り進んでおり、スロー地震の摩擦特性を理解するうえで鍵となるニュートラルな摩擦の速度依存性が明らかになっている。試験機の改良・製作も順調に進んでおり、既存の回転式中-高速摩擦試験機に間隙水圧の新たな制御機能を付加したことにより、断層の浅部すべり挙動を明らかにすることを目的とした実験を有効応力下で行うことが可能になった。また、熱水摩擦・透水試験機の製作を達成することが出来たため、熱水環境下で摩擦実験を行うことが可能となった。一方、熱水摩擦試験機を用いた摩擦透水試験は、ハードルが高いため、まずは常温摩擦試験機を用いた予察実験を開始した。これまでのところ予備実験は順調に進行しており、データ収得に成功している。
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今後の研究の推進方策 |
東九州の四万十付加体を対象に石英充填剪断脈の形成速度を導き出し、観測班が見出したスロー地震の発生間隔との比較を行う。正断層センスの剪断脈の原因(応力場変化かrapid tremor reversalを反映しているのか)を探る。逆断層センスの剪断脈と圧力溶解クリープによる変形の共存が浅部episodic tremor and slipを反映しうるか検討する。九州内陸部の四万十付加体、長崎変成岩類、三波川変成岩類を対象に全岩化学組成分析、アイソコン解析、微細構造解析、酸素同位体分析を行い、プレート境界に沿った変形メカニズム、流体の移動様式・メカニズムが深さによってどのように変化するのか探る。 粘土鉱物の摩擦特性をさらに検証し、ニュートラルな摩擦の速度依存性がどのような条件下で出現するのか調べ、スロー地震が発生する領域との関連性を議論する。南海トラフ巨大分岐断層物質、コスタリカ沖沈み込み帯インプット物質などについて、幅広いすべり速度、変位の条件下でかつ間隙流体圧下にある断層の摩擦特性を明らかにすることを目的とした実験的研究を行う。特に有効垂直応力やすべり速度擾乱が摩擦すべり挙動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした実験を進める。熱水摩擦試験機を用いた高温熱水摩擦実験を開始する。高温熱水環境下の高速摩擦実験は世界初の試みであるため、本年度は様々な温度速度条件のもと、正確に物理データが取得できるか模擬断層試料を用いて調整・確認を行う。また、引き続き模擬断層試料を用いて常温下での透水摩擦実験を実施して、浅部環境下での摩擦・透水・物理化学反応の関係を評価する。更に、昨年度購入した高間隙水圧制御装置を用いて、高間隙水圧場における岩石の透水性の挙動を考察する。
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