計画研究
(A)付加体・変成岩を対象としたスロー地震の地質学的描像と(B)室内実験に基づくスロー地震の摩擦・水理特性を検討し、以下の研究成果を得た。(A)に関しては、高間隙水圧下での深部スロー地震の発生をもたらすと考えられる流体は、これまで考えられていたスラブに含まれる緑泥石などの含水鉱物からの脱水に加え、プレート境界域に沿った剪断により異なる種類の岩石が接することで生じた交代作用によりもたらされることが明らかとなった。また、深部スロー地震発生域で形成されたメランジュの地質学的・岩石岩的研究により、蛇紋岩の滑石化交代作用および滑石片岩と苦鉄質変成岩の混合が剪断集中を引き起こすことを明らかにした。浅部スロー地震を対象とした研究では、IODPヒクランギ海溝の掘削コアを用いた解析により、古応力の転換と小断層の長時間発熱イベントが明らかとなった。南海トラフ超低周波地震域の反射法地震探査断面の解析では、プレート境界の地形と堆積物物性に相関があることが明らかとなった。(B)に関しては、南海掘削試料(カッティングス)を用いてその場の条件を模擬した摩擦実験を行い、深さとともに摩擦係数が上昇する一方、摩擦の速度依存性と深さの間に相関がないことが明らかとなった。また、空隙率と空隙径分布を測定し、空隙径の空間分布を評価した。その結果、地震発生帯における空隙径も空隙率同様に堆積圧密作用にともない減少することが明らかとなった。コスタリカ沖ココスプレート上の生物起源堆積物を用いた摩擦実験では、有効垂直応力減少に伴って摩擦の速度依存性が負から正へ変化し、その原因として変形機構がgranular flowへ遷移するためであることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
深部スロー地震発生域で形成された変成岩の地質学的研究により、スロー地震発生をもたらす流体の新たな起源として、交代作用に伴う反応が示された。化学反応による流体生成が、微動をもたらす脆性剪断破壊やスロースリップをもたらす延性剪断に関与するというのは、本研究課題により導き出された全のく新しい地質学的描像であり、研究代表者の氏家がNature Geoscience誌からNews and Viewsの執筆を依頼され公表したことからみても、国際的注目度は高いと言える。実験的研究では、南海掘削試料(カッティングス)を用いた摩擦実験が進展し、深さ変化に対応した摩擦特性の変化が得られている。生物起源堆積物を用いた摩擦実験では、摩擦の速度依存性を決定づける変形機構が提示された。これらの研究成果は、それぞれ南海トラフ、コスタリカ沈み込み帯における浅部スロー地震を決定づける摩擦挙動を理解する上での基礎データとなり得る。水理特性に関しては、空隙径分布の測定が可能となり、浸透率を求める道筋がついたと言える。
A)付加体・変成岩を対象としたスロー地震の地質学的描像長崎・西彼杵変成岩、石垣島・トムル変成岩、四国・三波川変成岩、奄美大島・付加体を対象に、地質調査、EBSDによる結晶方位解析、XRFによる全岩化学組成分析、シュードセクション法を用いた鉱物変化と脱水量の検討を行う。地質学的研究により得られた研究成果をA01班、B01班により得られた研究成果と比較・検討し、1)沈み込み方向に配列する蛇紋岩パッチが低周波地震のクラスターとなりうるのか、2)デュープレックス構造を形成する泥質片岩と塩基性片岩が低速度層を説明しうるのか、3)泥質片岩中に満遍なく認められる石英脈が低周波地震を説明しうるのか、4)海山沈み込みに関連して出来た岩相不均質性や流体移動がニュージーランド・ヒクランギ沈み込み帯で観測されている微動・スロースリップ発生を説明しうるのか検討する。(B)室内実験に基づくスロー地震の摩擦・水理特性引き続き南海掘削試料(カッティングス)を用いた摩擦実験を継続し、摩擦特性の深さプロファイルを作成し、物質変化との関連性を検討する。更にカッティングスを用いた浸透率の測定方法を開発し、また空隙径分布から浸透率を求める方法を検討する。コスタリカ沖ココスプレート上の生物起源堆積物を用いた摩擦実験を実施し、有効応力の変動に対応した摩擦挙動を検討する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (21件) (うち国際共著 7件、 査読あり 21件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (67件) (うち国際学会 14件、 招待講演 4件)
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