研究領域 | スロー地震学 |
研究課題/領域番号 |
16H06478
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
波多野 恭弘 東京大学, 地震研究所, 准教授 (20360414)
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研究分担者 |
住野 豊 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 講師 (00518384)
鈴木 岳人 青山学院大学, 理工学部, 助教 (10451874)
山口 哲生 九州大学, 工学研究院, 准教授 (20466783)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 摩擦 / ゲル / 粘弾性 |
研究実績の概要 |
1) 弾性体や流体を用いたアナログ実験 表面に凹凸をもつゲルを用いて摩擦力のすべり速度依存性を測定し、ある臨界速度において速度強化型から速度弱化型に遷移する非単調な摩擦則を得た。このゲルではプレート駆動速度が臨界値より僅かに大きな条件で複雑な滑り挙動を示す。断層面の凹凸を制御することで臨界速度を制御できることも発見した。 流体系モデリングでは、粘弾性流体を用いて単純ずりや溶液注入によるパターンダイナミクスを解析し、パターン生成の相図や機構を明らかにした。単一緩和時間の粘弾性流体を調製し非線形なひずみ領域における特性を制御する手法や、脆性破壊から塑性破壊を示す材料を化学物質の濃度で制御する手法を確立できた。 2) 実験室とプレート境界のスケールギャップを埋める理論的研究 破壊核形成過程のシミュレーションを行い、プレートの厚みが遅い滑りへ与える影響を確認した。特に、厚みが核サイズと同程度かそれより小さい場合は、滑り核が一箇所で成長せず、複数の異なる場所で同時多発的に成長することが分かった。この原因は、薄いプレートでは滑りフロントの実効的な線張力が弱いことに帰着される。同時並行して、地震のスケール依存性を考える際に特に重要な性質である、滑り面の粗さの影響を考慮した摩擦シミュレーションコードの作成を行った。完成したコードを用いて予備的シミュレーションを実行し、コードの妥当性を確かめた。 3) プレート境界の数理モデル構築と解析 動的な地震滑りにおける、摩擦発熱による流体の高圧化及び空隙生成による流体の減圧化をモデル化した。並行して、薄いプレートの沈み込み帯を速度状態依存摩擦法則でモデル化した系を解析し、安定滑りから不安定滑りに遷移する分岐点近傍に着目して方程式系の縮約を行った。縮約した方程式がある種の不安定性を示すことを明らかにし、この不安定性の特性とスロー地震の性質の共通点を探った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
タイムラインとしては多少のズレはあったものの、内容的には当初の計画通りに研究を実行することができたのみならず、予想を大きく上回る新しい成果が複数あった。特に、ゲル摩擦実験において凹凸を制御することで摩擦特性が定性的に変化することの発見は大きな成果と言える。流体実験においても、単一緩和時間の粘弾性流体を調製し非線形なひずみ領域における特性を制御する手法を確立できたことは、今後の実験を進めるにあたって重要な進展である。スケールギャップに関する研究では、当初の計画にはなかった「フラクタル的な凹凸を持つ断層」をシミュレーションコードに実装することができた。このことで、断層形状がスロー地震へ与える影響を定量的に議論できる道具立てが揃ったことになり、次年度以降には計画をさらに大きく超える進展が期待される。 ゆっくり地震における熱・流体・空隙生成相互作用の効果を調べる研究では、未知な部分の多い空隙発展則の詳細に依らない結果を得て、より一般化的な言明へ繋げられたのは計画以上の成果である。この結果は非線形動力学的視点からも興味深く、他分野への波及性も期待される。
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今後の研究の推進方策 |
ゲル摩擦実験では、地震発生前のひずみ蓄積過程における応力場の可視化を行い、その後の破壊挙動との対応を調べる。各粒子を“観測点”として、多観測点での破壊伝播挙動のインバージョンを試みたい。可視化で直接得られる結果と比較することで、インバージョンの精度を検証する。その上でアスペリティサイズに分布をもたせることによって、通常の地震とスロー地震が共存する実験系を構築し、通常の地震とスロー地震との相互作用を調べる準備とする。 流体系実験に関しては、均一材料系において単純ずりで生じるパターンダイナミクスを理解・制御する。この知見を生かし、系に不均一な構造を導入することで、現実の地球環境に近い設定でのパターンダイナミクスを観察・理解する。具体的には粒子や、塑性材料と脆性材料の混合系を用いる。 ゆっくり地震における熱・流体・空隙生成相互作用の効果を調べていく計画である。今回見出された普遍性・臨界性に対して、流体の流れの影響を考慮する。ゆっくり地震ではそれが重要な役割を果たしていると示唆されているからである。しかし、層流の仮定ではゆっくり地震がいつかは必ず加速してしまうことも過去の研究から示唆されている。従って乱流的流れが与える影響について考察する必要があり、まずは「多孔質媒質と乱流」という枠組みの構築に取り組む。 薄いプレート境界に速度状態依存摩擦則を設定して得られた縮約系と複素ギンツブルグランダウ方程式の相図と対比させ、系が時空間パターンの特性を明らかにし、観測結果の解釈へつなげる。同時に、今年度に構築したフラクタル的な凹凸を持つ摩擦面での滑り挙動のシミュレーションも本格化し、スロー地震の発生を再現したい。
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