研究領域 | 脳構築における発生時計と場の連携 |
研究課題/領域番号 |
16H06480
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
影山 龍一郎 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 教授 (80224369)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 発現振動 / 神経幹細胞 / 発生時計 / 光遺伝学 / Hes1 / Hes5 / Delta-like1 / Notchシグナル |
研究実績の概要 |
神経幹細胞は初め深層ニューロンを、続いて浅層ニューロンを形成し、最後にグリア細胞を形成する。神経幹細胞の維持に重要な役割を担う転写抑制因子Hes1やHes5はネガティブフィードバックを介して自律的に2~3時間周期の発現リズムを刻むことから、発生時計として機能することが示唆された。そこで、Hes5を持続発現するマウスを作製したところ、深層ニューロン産生期から浅層ニューロン産生期への移行、浅層ニューロン産生期からグリア細胞産生期の移行が加速化した。逆に、Hes5欠損マウスを調べたところ、それぞれの移行が遅延化していた。このことから、深層ニューロン、浅層ニューロン、グリア細胞産生期の正常なタイミングでの移行にはHes5の発現振動が重要であることが明らかになった。 続いて、Hes1の発現振動の重要性を明らかにするために、Hes1遺伝子からすべてのイントロンを除去した遺伝子改変マウスを作製した。今後、深層ニューロン、浅層ニューロン、グリア細胞産生期の移行のタイミングがどのような影響を受けているのか解析する予定である。 Hes1/Hes5の発現振動にはNotchシグナル系が重要な役割を担うが、NotchシグナルのリガンドであるDelta-like1 (Dll1)の発現も振動する。さらに、Dll1の発現が振動しなくなるとHes1の発現振動が減弱して神経幹細胞の増殖が低下する。そこで、光遺伝学的手法を用いてDll1の発現振動を誘導したところ、Notchシグナルを介して隣接細胞にHes1の発現振動が誘導されることが分かった。したがって、Hes1によって誘導されるDll1の発現振動を介して隣接細胞にHes1の発現振動が誘導されることで、神経幹細胞集団全体において発現振動が起こり、増殖能の活性化状態が維持されると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
深層ニューロン産生期から浅層ニューロン産生期への移行、浅層ニューロン産生期からグリア細胞産生期への移行の正常なタイミングにおけるHes5の発現振動の重要性が明らかになり、脳構築における発生時計の一端が明らかになった。Hes1の発現振動を減弱する遺伝子改変マウスも作製済みで、その解析によって脳構築における発生時計の全体像の理解が進むことが期待できる。また、光遺伝学的手法でDll1やHes1の発現振動を自在に制御できるようになったので、この手法を用いることで発現振動と発生時計との関係の理解が深まると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
Hes1の発現振動が減弱する遺伝子改変マウスは作製済みで、今後、このマウスの表現型を解析する。また、光遺伝学的手法でDll1やHes1の発現振動を自在に制御できるようになったので、この手法を用いることで発現振動が発生過程に与える影響を明らかにしていく。また、ES細胞から脳様の組織形成が誘導できる手法も確立したので、この系におけるHes1やHes5の発現振動の意義を解析する。
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