ポリコームが時期依存的にターゲット遺伝子を抑制するメカニズムについての検討を行った。ポリコームは組織幹細胞において分化遺伝子を抑制することが知られているが、幹細胞における分化遺伝子の抑制様式には二つあると考えられる。ひとつは分化遺伝子がのちに誘導シグナルを受けて発現するまで「仮抑え(一過的な抑制)」をする様式であり、これはすなわちその分化ポテンシャルを保持していることを意味する。もうひとつは分化遺伝子がたとえ誘導シグナルを受けても活性化しないように「永続的な抑制」する様式であり、これはすなわちその分化ポテンシャルを失っていることを意味する。しかしこれら二つの抑制様式を区別するメカニズムは不明であった。本研究においては神経幹細胞において、ポリコーム複合体が「ニューロン分化期」においてニューロン分化遺伝子を「仮抑え」し、一方「グリア分化期」ではニューロン分化遺伝子を「永続抑制」するメカニズムについて検討した。その結果、ニューロン分化期においてはポリコーム複合体の特定の活性がニューロン分化遺伝子の抑制に必要であり、一方でグリア分化期においてはその活性が不要であることを見出した。さらにグリア分化期においては、ポリコーム複合体の別の活性がニューロン分化遺伝子抑制に必須であることを示唆する結果も得た。以上の結果は、ポリコーム複合体が分化遺伝子を抑制する際に2つの異なるモードを使い分けることを示すとともに、幹細胞の分化運命を制御する中心的なメカニズムの一つを明らかにするものと考えている。
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