研究領域 | 脳構築における発生時計と場の連携 |
研究課題/領域番号 |
16H06482
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
仲嶋 一範 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (90280734)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 神経科学 / 発生・分化 / 脳・神経 / 大脳皮質 / ニューロン |
研究実績の概要 |
視床から大脳皮質に投射する軸索が4層ニューロン特異的な分化を誘導する重要なシグナルを供給している可能性が想定されたため、視床皮質投射線維にリガンド、4層ニューロンに受容体の特異的発現があるような組み合わせを検索した結果、候補となる分子を得た。そこで、その分子を子宮内エレクトロポレーション法を用いてin vivoで阻害した。その結果、一部の4層ニューロンマーカーの発現の減少といった分化への影響が明らかになった。一方で、視床皮質軸索の欠損に比較して、この分子の発現抑制による分化阻害の程度は弱いものであった。従って、別の分子も関与する可能性が示唆された。そこで、網羅的なプロテオーム解析を行い、この分化決定に関与する新たな候補分子の探索を開始した。 また、この細胞移動終了後の場における細胞外シグナルによってニューロンの層特異性が変化する現象が、2/3層ニューロンと4層ニューロンの間の分化に限られるのか、それともより一般的に他の層のニューロンでも認められるのかを検討するため、5層ニューロンと6層ニューロンの間で層特異性を人為的に変化させることができるかを調べた。すなわち、細胞移動に必要な細胞骨格タンパク質を移動ニューロンで阻害する方法で本来と異なる場所にニューロンを配置させ、層特異的分化に影響があるか検討した。その結果、異所的に配置された深層ニューロンは、5層特異的な遺伝子を高い頻度で発現することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4層ニューロン特異的な分化を誘導する重要な候補分子を見出したことは期待通りであったが、一方、その分子の役割は一部であるようで、他にも関与する分子が存在する可能性が示唆されたため。
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今後の研究の推進方策 |
視床からの投射線維が大脳皮質の4層特異的分化を誘導する重要なシグナルを供給している可能性が想定されたため、視床皮質投射線維にリガンド、4層ニューロンに受容体の特異的発現があるような組み合わせを検索した結果得られた候補分子について、引き続き解析を行う。ノックダウンで分化阻害が見られたため、レスキュー実験の際にこの候補分子の変異体を導入し、必要なドメインについて明らかにする。得られた情報から、この候補分子によって引き起こされるイベントを解明する。また、プロテオーム解析の結果をバイオインフォマティクスなどの手法で解析し、候補分子の炙り出しを行う。具体的には、タンパク質レベルで大脳皮質4層に多く局在する分子のうち、mRNAレベルでは視床に高発現し、大脳皮質ではほとんど発現の無い分子を探索する。このクライテリアから、視床から皮質への投射線維を介して4層に供給されている分子を絞り込めるものと考えられる。さらに、得られた候補分子に対する機能抑制や強制発現実験を行い、その分子の重要性を調べる。 さて、5層ニューロンと6層ニューロンの間で層特異性を人為的に変化させることができるかを調べた結果、異所的に配置された深層ニューロンは、5層特異的な遺伝子を高い頻度で発現することを昨年度の研究で見出した。そこで本年度は、どのような細胞外の因子がこの分化決定に関与するか調べる。上記の5層遺伝子の発現亢進は、大脳皮質の外の白質内に最終配置された細胞で起こるため、大脳皮質内の環境因子が通常では5層遺伝子の発現を抑制している可能性が考えられる。そこで、公共のデータベースなどからそのような発現パターンを示す候補分子を探索し、強制発現や発現抑制実験などから分化決定に関与するか明らかにする。
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