計画研究
哺乳類脳発生過程において、新たに生まれたニューロンは組織内を移動して皮質や神経核の特定の層に整然と配置し、精緻な神経回路を形成する。しかし、細胞自身の形態や剛性、細胞を取り巻く物理的環境の劇的な変化が、如何にして脳組織構築の時間制御に寄与するのかは殆ど明らかでない。本研究では、原子間力顕微鏡などの微小力学計測技術と新規に開発する力センサープローブを用いた画像解析法を用い、発生中の脳における細胞と組織の力学的性質の時間依存的な変化を制御する分子機構を明らかにすることを目指す。また、このような「場」の力学的特性の変化が、神経幹細胞増殖、分化、細胞運動をフィードバック制御する未知の機構を同定することを目的とする。昨年度までの研究で、核の硬さを決定するとされる核ラミナ分子ラミンA(LMNA)の発現動態と並行して顆粒細胞の剛性が上昇することを見出した。本年度はLMNA発現量を撹乱して核の剛性を操作し、小脳皮質形成過程の顆粒細胞遊走に与える影響を解析した。本来LMNA発現のない分化直後の顆粒細胞にLMNAを強制発現させると、外顆粒層から内顆粒層への顆粒細胞遊走が有意に遅延することが分かり、ニューロンが組織間隙を遊走するには核の柔軟な変形が必要であることが示唆された。並行して、遊走するニューロンの通過時に様々な負荷をかけるマイクロ加工基板を開発し、隘路遊走の動態をライブ観察する培養システムを開発した。この系を用いて顆粒細胞遊走におけるアクトミオシン動態を観察した結果、隘路通過時に核後方にアクトミオシンが集積し、周辺の細胞膜の収縮を示唆する小胞形成が観察された。前年度の研究で、平面上を遊走する顆粒細胞では核移動は先導突起からのアクチンの牽引力に依存することが示唆されていた。一方で隘路通過時には後方で収縮があり、平面遊走と隘路遊走ではアクトミオシンの力発生機構が全く異なることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
LMNAの異所的発現が組織内3D遊走を阻害することが示唆されたので、より詳細に機能解析を行うため、LMNA発現を誘導できるトランスジェニック動物の作成に着手する。ミオシン集積を核移動駆動力の指標とするイメージ解析法を確立する。隘路遊走を駆動するアクトミオシン収縮を解析するためのマイクロ加工パターン化基板を作成し、その分子経路を明らかにする。
昨年度から引き続き核に付加される張力センサープローブの開発を行ったが、SN比の高い分子の同定には至らなかったため断念した。代替え法として、アクトミオシンの集積を定量解析するイメージ手法で収縮力を評価する手法を開発し、自由表面上の遊走と物理的制約を受ける隘路遊走で力発生機構が異なることを示唆する結果を得た。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うちオープンアクセス 3件、 査読あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
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