研究領域 | 脳構築における発生時計と場の連携 |
研究課題/領域番号 |
16H06485
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
永樂 元次 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 教授 (40415097)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 発生時間スケール / 幹細胞 / オルガノイド / 神経発生 |
研究実績の概要 |
これまでの研究経過において、種特異的な発生時間スケールおよび発生様式を制御する分子機構を明らかにするために、ヒトおよびマウスES細胞由来の神経組織の比較解析を行なった。我々はこれまでに大脳及び網膜組織のオルガノイド培養系を構築しているが、大脳オルガノイドに関しては米国を筆頭に世界的に主要な研究施設において研究が進み、ヒトの1細胞オミックス解析を含む多くの研究成果が報告されている。それに対して、網膜発生に関してはまだ知見が少ないことから、網膜発生の種特異性の解析に優先的に取り組んだ。まず、代表的な分化マーカーの発現から比較解析するべき発生ステージを同定した。この時、ヒトの網膜誘導法は研究代表者らが新規に開発した、300日以上安定的に上皮構造を維持したまま正常に網膜組織を発生できる新規培養法を採用した。次に、これらの各発生ステージの網膜組織から細胞を調整し、1細胞トランスクリプトーム解析(scRNA-seq analysis)を行なった。ヒト/マウスの共通の遺伝子セットを用いたクラスター解析の結果、マウスおよびヒトES細胞に由来する網膜組織は、未分化な網膜神経幹細胞(RPC)、神経前駆細胞(NPC)、視細胞、神経節細胞を含むニューロン、色素上皮細胞のいずれかのクラスターに分類され、採用したサンプルが比較解析の為に妥当な発生ステージにある事が確認された。さらに詳細な解析の結果、各細胞クラスターにおいて、種特異的に発現している分子を多数同定した。特に網膜神経幹細胞の発現プロファイルからは、ヒトとマウスで神経幹細胞の維持や分化に異なるシグナル経路が関与している事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通りに研究は進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
神経幹細胞の維持・分化を制御する分子シグナルの種特異性の解析:網膜神経幹細胞での発現プロファイルからは、ヒトとマウスで神経幹細胞の維持や分化に異なるシグナル経路が関与している事が示唆された。これらの知見に基づき、各種阻害剤やシグナル伝達カスケードのレポーターノックイン細胞を用いて、ヒトとマウスの神経幹細胞動態の種特異性を制御する分子機構の全体像に迫る。また、これまでの研究では網膜の初期発生に焦点を当てて解析を行なったが、さらに後期の発生過程のサンプルを調整し、scRNA-seqを行なう事で、視細胞の成熟過程や層構造形成過程などの網膜後期発生様式に違いがあるかどうかを解析する。 ヒト神経発生過程の細胞動態の解析:ES細胞の自己組織化培養系を用いればヒト神経発生過程の細胞動態の解析が可能になる。そこで、インキュベータ一体型二光子顕微鏡を用いて細胞周期、細胞分化および細胞移動に注目して解析を行なう。この時トランスクリプトーム解析から明らかになった種固有の細胞種に特に注目することによって、発生時間スケールと相関する細胞現象を明らかにする。また、Hes1の発現振動のマウスとヒトでの相違についても検討する。
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