研究領域 | 脳構築における発生時計と場の連携 |
研究課題/領域番号 |
16H06486
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
安達 泰治 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 教授 (40243323)
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研究分担者 |
亀尾 佳貴 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (60611431)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 発生・分化 / 細胞・組織 / 生物物理 / 数理工学 |
研究実績の概要 |
本研究では、時間と場の連携による脳発生制御機構の解明を目的とし、実験・観察により得られた個別の知見を統合した脳発生シミュレーションプラットフォームの構築を目指している。これまで、大脳の発生過程において細胞・分子レベルから器官・組織レベルまでの異なる空間スケールで生じる諸現象に着目し、その数理モデル化と基礎的検討を行った。以下に、本年度中の主な研究実施内容と得られた成果をまとめる。 (A) ニューロン移動を駆動する細胞接着の数理モデリング:ニューロンを超弾性体の細胞膜で覆われたカプセルとみなし、細胞移動の駆動力を生み出す基質との細胞接着を数理モデルとして表現した。本モデルに基づくシミュレーションにより、細胞膜の力学特性や接着する基質の大きさが、細胞形状に及ぼす影響を明らかにした。 (B) リーリンを介した大脳皮質層構造形成の数理モデリング:リーリンの生物学的機能を理解するため、リーリンが細胞間の接着強度を変化させるとの仮説の下、同一サブタイプのニューロン群の移動を、細胞密度の時間発展を表す連立偏微分方程式系として記述することにより、大脳皮質層構造の形成過程を数理モデル化した。本モデルに基づくシミュレーションにより、正常な層構造の形成とリーリンの欠損による層構造の逆転を再現することに成功した。 (C) 受動的な細胞移動を考慮した大脳皮質形態形成の数理モデリング:細胞増殖に起因する組織の変形・成長を連続体力学に基づいて記述し、また、細胞密度の勾配により駆動される受動的な細胞移動を拡散方程式で表現して、両者を連成させた組織形態形成の数理モデルを構築した。本モデルに基づく有限要素シミュレーションを通じ、脳深部でのみ細胞の分裂・増殖が生じる大脳皮質では、半径方向に沿った細胞密度の勾配が発生するため、これがニューロンの放射状移動を助長する可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、神経幹細胞の分化に関連する遺伝子のネットワークを網羅的に定式化し、その経時変化から細胞の内部状態を推定することにより、運命決定機構の一端を明らかにすることを計画していた。しかしながら、領域内の実験研究者との議論を通じ、脳発生制御機構の全体像の解明という目的を達成するためには、このような枚挙的なアプローチよりも、大脳皮質の形態形成過程において最も根本的な事象である「ニューロンの細胞移動」に焦点を絞り、それに関連する分子機構に着目する方が重要との考えに思い至った。そこで、細胞移動に関連する細胞内外の分子を考慮して、大脳皮質ニューロンの放射状移動の数理モデル化を行い、その制御機構の解明を目指すこととした。 このような研究計画の変更にも関わらず、本年度は、大脳発生過程において異なる空間スケールで生じる3つの現象、すなわち、(A) ニューロン放射状移動、(B) 大脳皮質層構造形成、(C) 大脳皮質形態形成の数理モデル化と基礎的検討を実施することができた。よって、現在のところ、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究に引き続き、大脳発生を対象として、ニューロンの放射状移動、大脳皮質層構造の形成、大脳皮質の形態形成の数理モデリングに取り組む。さらに、微視的なレベルの解析で得られた知見を捨象し、巨視的なレベルの解析に組み込むことにより、細胞・分子ダイナミクスに基づいて脳発生過程を再現するマルチスケールな数理モデルを構築し、時間と場の連携的な制御機構の全体像の解明を目指す。
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