計画研究
胸腺髄質上皮細胞(mTEC)に発現する転写因子Aireは種々の自己抗原遺伝子の発現を正に制御し、自己寛容の成立機構に重要な役割をはたすと考えられている。しかしながら、mTECにAireを過剰に発現させたトランスジェニックマウス(NOD背景)が多発性筋炎様の自己免疫病態を呈することを見出した。今年度はAireの過剰発現によってどのような遺伝子群の発現変動がみられたかをRNA-seq法を用いて解析した。その結果、Aireによる自己抗原遺伝子の発現誘導には、mTECに対する分化誘導作用が関与していることが示唆された。他方、ナイーブ状態でもあらかじめ記憶細胞の特徴を有し、サイトカイン産生能やキラー活性能を既に獲得したT細胞が生体内に存在する。このようなT細胞を自然免疫T細胞と呼ぶ。我々は自然免疫T細胞の代表であるγδ型T細胞が、胎生早期の胸腺ですでにIFN-γ/IL-17産生能を獲得していること、さらにこのγδ型T細胞はCD44highCD25+CD117+(DN2)ステージから直接分化することを見いだした。DN2ステージはCD117の発現によってCD117high のDN2aとCD117medのDN2bステージにわけられる。転写因子BcL11bはこのDN2aからDN2bへの胸腺細胞の分化に必須の転写因子である。我々はconditional Bcl11bKOマウス (Bcl11bflox/floxマウス x RAG-1-Cre マウス)を用いて、IFN-γ産生γδ型T細胞はDN2a胸腺細胞から、IL-17A産生γδ型T細胞はDN2b胸腺細胞から直接分化できることを明らかにした。さらにIL-17A産生γδ型T細胞は新生児期の胸腺でその産生数が最大となり、末梢では新生児期から幼若期の肺における肺肺炎桿菌感染防御に必須であることを証明した。
1: 当初の計画以上に進展している
種々の遺伝子改変マウスを用いた研究は、ほぼ当初の予定通りに進行している。
AireがmTECの分化プロセスをコントロールするメカニズムを明らかにする。そのために、野生型とAire過剰発現マウスとの間で比較したtranscriptomeに加え、野生型とAire欠損マウスとの間のtranscriptomeを明らかにし、ベン図上、両者の交わり該当する部分に存在する遺伝子について、その機能を個別に解析してゆく。それによって、Aireがどのような遺伝子群の発現制御を介してmTECの分化、それに続く自己抗原遺伝子の発現コントロールのメカニズムを明らかにする。一方、IL-17A産生γδ型T細胞の認識する自己抗原の同定を目指し、それを制御する可能性のあるAire依存的遺伝子群を明らかにする。すなわち、Aireと自然免疫T細胞との関連性を明らかにし、胸腺において自己寛容の成立機構に関わる「ネオ・セルフ」の実態解明に取り組む。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 4件、 査読あり 7件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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