計画研究
Aire欠損症は単一遺伝子の異常による自己免疫病態を示すため、胸腺における免疫学的自己の定義付けに最適な研究対象である。今年度はAireの標的遺伝子を同定するための遺伝子改変マウスを樹立した。すなわち、P2Aリンカーを用いて内在性のAire遺伝子座にマウスAire cDNAを2コピー付加したノックインマウスを作製した(以下、3xAire-KIと略す)。実際に、Real-time PCR法によって胸腺髄質上皮細胞(mTEC)からのmouse Aireの発現レベルを測定し、ヘテロ3xAire-KIでは野生型の2倍、ホモ3xAire-KIにおいては野生型の3倍と期待通りのAire mRNAの発現を認めた。そこで、Aireの過剰発現による胸腺髄質上皮細胞(mTEC)のTranscriptome解析を実施したところ、意外にもAire欠損マウスと同様に様々な遺伝子発現の低下を認めた。今後は、そのメカニズムを解析する予定である。他方、胸腺で分化する過程でインターロイキン(IL)-17A産生能を有するVγ6+γδTh17細胞は、様々な感染症や自己免疫疾患でT細胞レセプター(TCR)依存性に活性化されることから、胸腺内と末梢の炎症の場で発現する「ネオ・セルフ」抗原を認識していると考えられる。今回、Vγ6特異的モノクローナル抗体(1C10-1F7 mAb)を用いて, Vγ6+γδTh17細胞の胸腺での分化と末梢での維持に関わる分子と感染症、自己免疫病での役割を調べた。その結果、1)MHCクラスII分子欠損の胸腺ではVγ6+γδTh17細胞は増加する。2)SLAM-SAPのシグナルは末梢でのVγ6+γδTh17細胞を減少させる。3)Vγ6+γδTh17細胞は大腸菌の感染早期の防御に働く。5)imiquimod投与乾癬モデルで1C10-1F7 mAbがその治療に効果があることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、P2Aリンカーを用いて胸腺髄質上皮細胞(mTEC)においてAire蛋白を過剰に発現するノックインマウスの作出に成功した。それによってこれまでに我々が主張して来たAireのmTEC分化誘導作用ならびにそれによる自己抗原の発現調節機構を明らかにする予定である。この方法論を用いることによって、AireがmTEC特異的に発現することの生理的意義やAireの過剰発現による病理学的変化の検証といった多くの課題に取り組むことが出来ることになる。一方、Vγ6+γδTh17細胞は胸腺内と末梢の炎症の場で発現する「ネオ・セルフ」抗原を認識していると考えられるが、その性状を明らかにするために必要となる新規モノクローナル抗体の樹立にも成功しており、本年度の研究計画はおおむね順調に進展していると言える。ただ、当初、Aireに関する研究成果を報告する予定であったThe 3rd International Congress on Rare DiseasesがCOVID-19の蔓延により延期となった点は残念であった。
我々はAire胸腺髄質上皮細胞の分化を誘導するメカニズムによって自己寛容の成立を制御するモデルを提唱し、その妥当性を検証してきている。そのため、この度のAireがmTECの分化誘導を通じて自己抗原の発現を調節しているとする知見は、きわめて重要であり、今後は同様なメカニズムがAire欠損状態においても自己抗原発現低下の原因となっているか否かをAire欠損マウスを用いたTranscriptome解析やSingle-cell analysisによって確認する必要がある。なお、COVID-19の蔓延により延期となったThe 3rd International Congress on Rare Diseasesについては、開催された際にはTissue-specific autoimmunity controlled by Aire, a gene responsible for APECEDのタイトルで報告する予定である。一方、Vγ6+γδTh17細胞が認識する胸腺内と末梢の炎症の場で発現する「ネオ・セルフ」抗原の性状を明らかにする研究を引き続き行う計画である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 3件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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