計画研究
MHC class II結合性ペプチドを生きた抗原提示細胞を用いて定量測定する方法を確立した。これは、特願2011-273922に記載した末端修飾の方法を要とする技術による。次に、この方法を用いて、HLA-DRB1*04:05結合性ペプチドを予測するplatformを作製した。そして、この自動予測法を用いて、前立腺癌を含む、多くの固形腫瘍に発現される腫瘍抗原について、HLAクラスI、クラスII分子に結合するペプチドをそれぞれ同定した。これらペプチドについて、健常人T細胞の反応性を調べた。また、MHC結合性ペプチドを用いてマウスを免疫する実験系で、ペプチドをアジュバントであるCpGあるいはpoly ICと共に、liposomeあるいはmicelleに会合させ、抗原提示細胞のendosomeとcytoplasmに効率よく届けるDDSの方法を比較検討した(宇高)。新規がん抗原について、日本人で頻度が高い複数のHLAクラスⅡ分子に結合して、CTLの誘導を増強するTh1細胞を誘導できる合成長鎖ペプチドを多数同定した。同Th1細胞の、がん抗原蛋白質を負荷した樹状細胞への反応を確認し、樹状細胞による処理後にCTLを活性化する短鎖ペプチドを提示できる、長鎖ペプチドを複数同定した。in vitro培養系で抗PD-1抗体の添加により、CTLとTh1細胞の特異的反応を増強できた。さらにヒト単球に細胞増殖を促進する遺伝子を発現させて細胞株を樹立し、これより大量の樹状細胞を誘導する方法を開発した。ヒトT細胞を、この樹状細胞に長鎖がん抗原ペプチドを負荷して培養すると、効率良くCTLとTh1細胞を誘導できた。以上の現象を複数の健常人と、がん患者のT細胞で観察した。これらの研究成果は、同定したがん抗原長鎖ペプチドによる、強い腫瘍免疫の誘導を支持する(西村)。
2: おおむね順調に進展している
生きた抗原提示細胞を用いたMHCクラスII分子結合性ペプチドの定量測定法を確立し、SK-SVMを基盤アルゴリズムとする質問学習法を用いて網羅的なペプチド結合特性の解析を行った。その結合データをデータベース化し、任意のアミノ酸配列をもつペプチドについて結合能を自動予測するplatformを作製した。予測値と実測値の検証を行った後、このplatformを活用して、前立腺がんワクチンを開発するための、HLAクラスI、クラスIIペプチドの同定を行った。次に、A24トランスジェニックマウスを用いたin vivo免疫誘導と、ヒト末梢血PBMCからin vitroでペプチド反応性T細胞を誘導する方法の至適化を図ったのち、候補ペプチドのスクリーニングを行った。最後に、化合物U2317により、血管内皮細胞のクロスプレゼンテーションが誘導されるメカニズムを明らかにした(特許準備中)。予定通りに進行しているが、論文が受理に至っていないため、論文化を急ぐ(宇高)。すでに我々が過去の研究により同定した、腫瘍免疫の標的として適した性質を有する新規がん抗原について、以下のような研究成果を得ることができ、当初の目標をほぼ順調に達成できており、研究計画を変更する必要はなかった。まず日本人で頻度が高い複数のHLAクラスⅡ分子により提示され、Th1細胞を活性化できる多数の合成長鎖ペプチドを同定し、その中にCTLとTh1細胞を共に活性化できるものを複数同定した。また誘導したTh1細胞は、期待どおりにCTL誘導を増強できた。in vitroで抗PD-1抗体による免疫抑制解除により、がん抗原ペプチドに対するCTL/Thの免疫応答が著明に増強された。遺伝子操作を加えたヒト単球から誘導した樹状細胞への、がん抗原長鎖ペプチドを負荷により、CTLとTh1細胞を誘導できる樹状細胞を大量に作成する方法を確立できた(西村)。
候補から絞り込んだHLAクラスI、クラスII分子結合性ペプチドについて、前立腺がん患者の末梢血を用いたT細胞誘導実験を行い、臨床試験の抗原とするペプチドを最終的に絞り込む。臨床試験に早期導入が可能なペプチド、アジュバント、ミセル会合体を免疫する方法について、動物免疫実験による抗腫瘍活性と毒性の検討を行う。次に、血管内皮細胞のクロスプレゼンテーションを高める化合物U2317について、in vivo抗腫瘍効果と安全性の確認を行い、知財の確保と論文発表を行う。また、HLAクラスII結合性ペプチド予測 platformを活用して、研究班の抗原ペプチド探索を支援する。後半の年度に向けては、血管内皮細胞の抗原提示によるT細胞のトラフィック機構の生理学的意義が示唆されるデータが腫瘍免疫以外の現象についても得られているので、この現象について、核心のデータを押さえることを急ぎたい(宇高)。平成28年度の研究をさらに発展させ、より多くのがん抗原およびがん腫を対象として腫瘍免疫の誘導に適した、がん抗原長鎖ペプチドを同定する。今後は、低pH感受性ポリマーで修飾されたリポソームに長鎖癌抗原ペプチドを包埋し、これが樹状細胞のエンドソーム内に取り込まれた後に、ポリマーの性質によりエンドソームとリポソームの膜の融合により、長鎖ペプチドが細胞質に遊離して短鎖ペプチドの産生効率が高まり、CTLの誘導効率が増強するか否かについて、多数のがん抗原長鎖ペプチドについて検討する。また我々は担がんマウスにおいて、がん抗原特異的CTLの活性化を促進するTh1細胞の誘導が、ミエロイド系細胞が関与するIL-6シグナルの作用を介して、抑制されていることを報告している。ヒトのがん患者でも同様の現象が観察されるか否か検討し、さらにIL-6シグナルの制御によるT細胞性の抗腫瘍免疫応答の増強を試みる(西村)。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件) (うち外国 2件)
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