計画研究
腫瘍血管内皮細胞(EC)の抗原提示能を利用して、腫瘍組織にT細胞を動員するペプチド免疫療法の技術革新を進めた。1.腫瘍抗原WT1、SNについて、細胞傷害性T細胞(CTL)とヘルパーT細胞(Th)が認識するペプチドを同定し、A24トランスジェニックマウスを免疫してT細胞の誘導能を、主要なCTLについてT細胞レセプター(TCR)遺伝子を同定した。2.抗原提示作用薬U2317を併用することにより、ECのクロスプレゼンテーション能を高め、CTLを腫瘍組織に浸潤させる機構を解明し、担がんマウスに対する腫瘍制御効果を明らかにした(論文作製中)。3.ペプチド免疫のT細胞誘導能を高めるミセル担体のT細胞誘導促進効果を明らかにした(論文作成中)。4.抗体が存在しないために世界的に解析が遅れていたHLA-Aアリルについて、それらを認識するモノクロ―ナル抗体を作製した(論文投稿中)。(宇高)すでに樹立した化学療法耐性のマウスがん細胞株に対する、in vivo腫瘍免疫解析系を確立した。さらに、がん細胞株のRNAseq解析により当該細胞に特有で正常細胞には、ほとんど発現しないがん関連抗原ならびにネオ抗原を多数同定した。これらの抗原に由来し、MHCクラスIあるいはII分子に結合して、それぞれ細胞傷害性T細胞(CTL)あるいは1型ヘルパーT(Th1)細胞を誘導可能なペプチドを、既存のアルゴリズムを用いて推定した。これらのペプチドを合成し樹状細胞に負荷してマウスに免疫することにより、CTL誘導ペプチドを多数同定できたが、Th1細胞を強く誘導できるものは同定できなかった。CTL誘導性ペプチドを負荷した樹状細胞の免疫により、腫瘍増殖を予防ならびに治療でき、さらに抗PD-1抗体との著明な併用効果の誘導に成功した。抗IL-6抗体との併用効果の解析については、間に合わず次年度の課題となった。(西村)
2: おおむね順調に進展している
論文発表が遅れているが、実験は予定通り進んだ。腫瘍抗原ペプチドとU2317の抗腫瘍効果については、特許出願を待って投稿予定である。また、ネオ・セルフ研究班のメンバーを含め、MHC結合性ペプチドの予測と同定に関して、技術協力を行った。H30年度までの目標には入れていなかったが、我々が開発しているHLA結合性ペプチドを自動予想するplatformについては、新たにHLA-A*11:01結合性ペプチドの予想が可能になった。(宇高)昨年度に予定していた研究計画を、ほぼ予定通りに遂行して成果を得ることができ、これらの成果を16回の学会発表ならびに4編の英文論文として発表し、3編の論文については投稿準備中である。ただし、マウスMHCクラスII拘束性Th1細胞が認識する、がん抗原ペプチドの同定ならびに抗IL-6抗体による免疫抑制解除療法との併用療法については、これらをうまく達成できずに次年度以降の課題として残された。複合免疫療法の効果としてT細胞レパトアの変動に関する解析の重要性を感じ、これを研究班員間の共同研究により実現すべく、研究の段取りについて行程を確定した。総評として研究は、順調に進んでいる。(西村)
WT1,SN腫瘍抗原を標的としたペプチド免疫療法の臨床応用に向けて本領域が取り組むべき技術課題として、ペプチド反応性T細胞を定量評価する方法の確立が残されていた。また、抗腫瘍免疫反応を推し量るバイオマーカーの探索も、世界的に望まれている。昨年度までの成果を論文化することに加え、これらの課題を解決したい。1.ヒト末梢血T細胞の培養方法について至適化を図る。改善点として、これまで使っていた細胞内サイトカイン染色はノイズが高く、解析者によるばらつきもあるため、抗原認識に伴って起こる細胞表面タンパクの変化を捉える方法を検討中である。今後、施設間で比較検討ができる方法を確立したい。2.免疫反応を推定するバイオマーカーとして、ECから分泌されるmiRNAを定量評価する方法を検討中である。今後、候補に挙がっている分子種について、マウスとヒトでの比較、患者血清を用いたバイオマーカーとしての有用性を検討したい。(宇高)マウスクラスII拘束性Th1細胞が認識する、がん抗原ペプチドの同定については、RNAseqデータに基づいて宇高研究代表者らとの共同研究により、新規アルゴリズムを利用して、これらを推定し、その抗腫瘍免疫の誘導能について検討する。また抗IL-6抗体によるTh1細胞の抑制解除療法との併用効果について解析する。さらに、がん抗原ペプチド負荷樹状細胞ワクチンと抗PD-1抗体の併用免疫療法の前後の、腫瘍浸潤T細胞やリンパ組織中のT細胞が発現するT細胞レセプターのレパトア解析をA01研究班の小笠原研究代表者と、さらに優勢を占めるT細胞レパトアに属する単一T細胞に発現するTCR遺伝子の同定と抗原特異性の解析を、A01研究班の岸研究代表者との共同研究により実施し、次世代複合がん免疫療法の効果について多面的に解析して、その開発研究を推進する予定である。(西村)
受賞: 2019年日本組織適合性学会 学会賞(西村泰治 内定)
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 6件、 招待講演 7件)
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