1. HLA-DP5の6量体と結合するTCR側の立体構造をモデリングによって検討したところ、2種類の会合様式の組み合わせで4量体を形成することが分かり、HLA-DP5の6量体化によってTCRが4量体化し、強く活性化すると考えられる。このようなHLA-IIの6量体とTCRの4量体の相互作用は、比較的強い免疫応答(病原体、アレルゲン等)のHLA-II・TCR複合体構造に共通することが判明した。これにより、TCRを活性化に導く多量体構造の実体が初めて明らかになった。 2. 比較的弱いと考えられる免疫応答(自己免疫等)のHLA-II・TCR複合体構造では、HLA-IIの6量体化とTCRの4量体化は弱いと結論された。他方、TregのTCRは、HLA多量体との強い結合が困難であることが示唆された。 3. 以上のモデリング解析の結果に基づいて、TCRを強く活性化できる状態(ネオ・セルフ)は、「HLAとTCRの相互作用が、HLAの6量体とTCRの多量体との相互作用が可能になるペプチド提示様式である」と結論した。これにより、本研究課題の最終的な目標を達成することができた。 4. スギ花粉抗原Cry j 1由来ペプチド(pCj1)を提示したHLA-DP5(ネオ・セルフ)を認識する患者由来のT細胞レセプター(TCR)について、独自の無細胞タンパク質合成法を適用して、膜貫通量域を含む全長のTCR・CD3ヘテロ8量体(αβγδε2ζ2)を大量調製した。他方、6分子のHLA-DP5(αβ)細胞外領域試料を、6回の繰り返しをもつ人工ペプチドと共有結合したホモ6量体を調製し、全長TCR・CD3ヘテロ8量体との複合体を形成させ、クライオ構造解析を試みている。
|