研究領域 | ネオ・セルフの生成・機能・構造 |
研究課題/領域番号 |
16H06501
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
横須賀 忠 東京医科大学, 医学部, 主任教授 (10359599)
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研究分担者 |
末永 忠広 大阪大学, 微生物病研究所, 准教授 (20396675)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | T細胞受容体 / マイクロクラスター / MHC / ミスフォールド蛋白質 / ネオ・セルフ |
研究実績の概要 |
T細胞の活性化は、T細胞受容体(TCR)マイクロクラスターと称するT細胞活性化ユニットが時間的空間的に形成されることで制御される。これまでTCRマイクロクラスターの研究は末梢エフェクターT細胞を中心に行われ、胸腺での詳細は不明であった。胸腺細胞が分化する際、セルフ、ノン・セルフをどのように見分けるか、分子イメージングと抗原提示ガラス平面人工脂質膜を用いてマイクロクラスターの形成を解析した。セルフを示すポジティブセレクション誘導型ペプチドでは、TCRマイクロクラスターは形成と消褪とのバランスが均等である一方、ノン・セルフを示すネガティブセレクション誘導型ペプチドでは、TCRマイクロクラスターの過形成によるTCRの蓄積が著明であり、TCRマイクロクラスター形成のバランスが崩れTCRシグナルが増強延長する。このことから、T細胞が胸腺において正の選択を受けるためには、ポジティブセレクション抗原によって適度な強さのTCR刺激が継続的に行われる必要のあることが予想される。さらにTCRマイクロクラスターの形成と消褪との均衡を詳細に解析するため、TCRのユビキチン化、インターナリゼーション、分解をそれぞれ実験的に制御しながら可視化するため活性化後のTCR発現を制御するE3ユビキチンリガーゼCblファミリー分子の遺伝子欠損細胞を用いて、TCRシグナルの終焉を詳細に解析したところ、TCRマイクロクラスターの形成と消褪とがどのくらい胸腺選択やネオ・セルフの認識と関連しているか、TCR刺激と対応したTCRインターナリゼーションの強度、T細胞活性化、TCRマイクロクラスター形成のマルチファクターの相関性が分かってきた。特にCblファミリー分子においてはCbl-bとc-Cblの二つのアイソフォームで末梢T細胞と胸腺細胞とでは異なる機能と挙動を示すことが理解できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TCRシグナルの強度によって胸腺選択がセルフ、ノン・セルフ、ネオ・セルフを認識するそのTCRが用いられるか決定するという仮説を、E3ユビキチンリガーゼファミリー分子Cblを用いてデジタルな解析を基に解析した。特にc-Cblは末梢T細胞とは異なりT細胞活性化に必須な免疫シナプス面に持続的に集積することが分かり、その結果遷延したTCR活性化シグナルソームが形成され胸腺選択に左右する可能性を示唆している。 胸腺T細胞のイメージング解析から、T細胞受容体(TCR)シグナルソームの形成が末梢T細胞のものとは異なり、免疫シナプスの中心部で継続的に形成され、それが胸腺でのT細胞の選択性に係るシグナルである可能性を示した。 Ovablumin(OVA)抗原の変異リガンドと特異的TCR OT-Iトランスジェニック(Tg)の系において、胸腺での正の選択を誘導するポジティブセレクター抗原と負の選択を誘導するネガティブセレクター抗原、ネオ・セルフ抗原によるTCRシグナルソーム形成に違いを示した。 ヒト(h)CD19抗原に対するキメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor : CAR)のイメージング解析から、腫瘍抗原を認識する際のCARマイクロクラスターの可視化に成功した。また、CARの腫瘍抗原認識と同時にCAR-T細胞に発現している内在性TCRが腫瘍細胞上のMHCと共にマイクロクラスター形成することを示し、TCRと自己抗原+MHCとの結合、つまり自己抗原がネオ・セルフ抗原となっていることを明らかにした。 花粉抗原Cryj1と共に四量体形成を示すHLA-DPα1*02:02 β1*05:01の1分子イメージング実験系を樹立した。プレリミナリーな解析では、Cryj1抗原ペプチド存在下にHLA-DPα1*02:02 β1*05:01の自発的凝集が観察された。
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今後の研究の推進方策 |
胸腺選択におけるセルフ、ノン・セルフで起こっている現象をTCRシグナル活性の強度と継続時間に視点を置き、ユビキチンリガーゼCblファミリー分子欠損マウスの胸腺選択前T細胞を用いて、TCRシグナルソームのイメージング解析を行い、セルフとノン・セルフの境界で起こり得るネオ・セルフ胸腺選択をPalmerラインの推移によって検証する。 ヒトCD5抗原CARを可視化する1分子イメージング実験系を樹立し、現在臨床的にその謎の解明が求められているhCD5 CAR-T細胞がhCD19ほど腫瘍縮小効果が期待できない理由を、hCD5 CAR-T細胞上の内在性TCRとネオ・セルフ抗原+MHCとのシグナルソーム形成から明らかにすることで解明する。 T細胞補助刺激分子はTCRシグナルの強弱を調節する働きを持つが、これまではリガンド結合における支持・拮抗やシグナル伝達経路でのクロストークが主な作用メカニズムと考えられていた。一方、本研究班のT細胞1分子イメージングによって、補助刺激分子がTCRを物理的にネオ・セルフ抗原+MHCと会合させシグナルソームを形成する可能性が示唆された。CD28、ICOS、DNAM-1などの活性化および、PD-1、CTLA-4、TIGIT、LAG3、CD96などの抑制性補助刺激受容体の新たなメカニズムをネオ・セルフ抗原のイメージング解析から明らかにする。 HLA-DP α1*02:02 β1*05:01の1分子イメージングと花粉抗原Cryj1特異的T細胞クローンを用いて、HLA-DP+Cryj1四量体が誘導するT細胞の過剰応答を生理学的見地からも解析し、MHC四量体構造が創出するネオ・セルフの病態に迫る。
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