研究領域 | 光圧によるナノ物質操作と秩序の創生 |
研究課題/領域番号 |
16H06504
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
石原 一 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60273611)
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研究分担者 |
川野 聡恭 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (00250837)
菅原 康弘 大阪大学, 工学研究科, 教授 (40206404)
秋田 成司 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60202529)
細川 千絵 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (60435766)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 光圧 / 分子流体力学 / 単一分子計測 / 光物性理論 / 光マニピュレーション |
研究実績の概要 |
AFMカンチレバーやカーボンナノチューブ(CNT)バネ、或いは可視広域で透明な原子層膜(MoS2など)をバネにした精密光圧計測法を開発しており、AFMカンチレバーを用いた場合では、ヘテロダイン技術(周波数変換技術)と周波数変調(FM)法に基づく方法(ヘテロダインFM法)により光熱効果による見かけの力と光誘起力を分離測定し、量子ドットからの光誘起力を10nmの空間分解能で明瞭に観察することになどに成功している。またCNTをバネとして力勾配の分解能 ±0.015 pN/μmという、ほぼ理論的熱雑音限界の極めて高感度な計測が実現した。一方、ナノ粒子の運動観測においては、マイクロ流路を用いた熱泳動評価デバイスを作製し、粒子の温度勾配に対する応答方向が粒子種に依存することを明らかにして、流れと熱泳動の均衡を利用して熱泳動の強さを定量的に調べる方法を提案した。また、二次元周期構造を有するプラズモニックチップ表面において、蛍光性ナノ粒子の光捕捉過程の蛍光解析を行った。ナノ粒子がレーザー集光領域を通過する平均滞在時間は、カバーガラス表面での結果と比較して増加することを見出し、表面プラズモン共鳴効果に基づく光捕捉力の増大に起因すると考察した。理論面では、共鳴光学応答以外の光圧成分を相殺する対向ビーム法を提案し、さらにナノ微粒子捕捉で避けられない強励起に曝された分散微粒子集団の発光特性を評価する初めての理論的手法の開発に成功している。また、共鳴応答と非線形効果を組み合わせた全く新しい超解像光圧捕捉を理論提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
AFM探針をバネとし、ヘテロダインFM法により光熱効果による見かけの力と光誘起力を分離測定することに成功し、実際、対象とカンチレバーがごく短距離の場合にのみ働く力の抽出に成功している。またグラフェン機械共振器の機械的共振特性に与える影響を線形振動領域だけでなく非線形振動領域に関しても検討を行い、その結果、グラフェンと基板の間に生じる光定在波分布が光誘起熱効果を通して共振特性に大きな影響を与えること、波長を選択することで大きな振幅にも拘らず非線形振動が抑圧され非線形振動から線形振動へと移行できることを見出している。本法を用いることでナノ機械共振器による精密力計測の測定限界の下限を拡張することが可能と判断される。このように、前半期でナノ物質光圧計測での熱効果克服のための道筋を明確にし、単一量子ドットにかかる力の測定感度が得られたことは当初計画から見て、さらに進んだ成果であったと考えている。 マイクロ流路を用いたナノ微粒子の運動観測と熱勾配存在下での解析、及び光圧下での流体中のナノ微粒子運動解析の結果は特に共同研究[A]の方針に対して重要な示唆を与えた。具体的には水中のポリスチレンナノ粒子について、一様流れ場中における光トラッピング挙動を数値的に解析し、拘束の可否に対するレーザー出力・粒径・流速の影響を調査した結果、拘束の可否が分かれる条件の遷移領域において,特徴的な確率挙動が見られた。この成果はナノ粒子を光で拘束するために必要な条件を提示し、実験の指針を与えた。 理論においては、対向ビームを用いて共鳴光学応答以外の力成分を相殺する手法の提案が、実際に実験グループのさらなる工夫と結びつき、共同研究[A]における、共鳴による選別的輸送実験に結実したことは技術的に大きなブレークスルーとなり、想定を超えた成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は、前半期にその手法を確立してきた、(1)超精密光圧測定、(2)流体中のナノ物質に対する光圧操作と観測、(3)微視的光学応答理論に基づいた光圧理論について、さらに多様な環境で、また対象をより小さなナノ物質としてその技術を高度化し、31年度以降は当初計画通り(1)から(3)の結果の整合性を詳細に検討する。具体的には以下のような計画である。 超精密光圧測定の高度化については、外界からの熱擾乱の影響を現在より一層、低減できる極低温環境での測定を実現し、光誘起力をさらに高感度・高分解能に測定できるようにする。CNTや2次元原子膜を利用したナノ機械共振器を用いる手法においては、上記量子ドットや微細な金属構造に働く光圧の空間分布の定量的な測定を行う。またこの手法においても熱効果低減のため、共振周波数の測定時において駆動には光誘起熱効果が発生しない静電引力駆動をおこなう。さらに、ナノ粒子に働く光圧の空間分布を測定するために高真空中での精密な位置制御が可能な系を合わせて構築する。 流体中のナノ物質に対する光圧操作と観測については、分子流体力学的見地からその精度向上と計測手法をさらに発展させる。流体へのレーザー照射により、粒子には光圧だけでなく、周囲流体の運動による流体抵抗力や局所温度上昇による熱泳動力が働く。これら周囲環境の影響を適切に制御して、ナノ物質の光圧操作の精度や物質選択性を上げるため、レーザー照射条件やナノ流路デザイン等、膨大なパラメータ空間における最適設計を行う。データの収集については、水溶液中の蛍光性ナノ粒子や量子ドット、蛍光分子を対象として、光圧下における粒子運動を単一粒子レベルで蛍光解析を行う。 微視的光学応答理論に基づいた光圧理論に関しては、上記それぞれの実験条件をより現実的にモデル化した計算を行い、31年度からの結果の比較検討に備える。
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