研究領域 | 光圧によるナノ物質操作と秩序の創生 |
研究課題/領域番号 |
16H06505
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
岡本 裕巳 分子科学研究所, メゾスコピック計測研究センター, 教授 (20185482)
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研究分担者 |
伊都 将司 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (10372632)
庄司 暁 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (20437370)
芦田 昌明 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (60240818)
熊倉 光孝 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (30324601)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 光ピンセット / 光物性 / 非線形光学効果 / 物質操作 |
研究実績の概要 |
共鳴・非線形光学効果を利用した操作の自由度の拡張を目的として,下記の研究を展開した。常温液中で新たな操作様式を開拓するため,継続して実験系の構築と現実系への適用を進めた。キラル金属微粒子の光捕捉実験では,キラル金ナノ微粒子を右円偏光と左円偏光で捕捉したときに捕捉力が異なり,その程度が粒子の光学活性に相関していることを見出した。有機色素内包微粒子に作用する二光子吸収力が光強度に対し非線形応答を示す事を実証すると共に,光圧測定から単一微粒子の二光子吸収断面積測定が可能であることを示した。また有機分子の過渡吸収力による光操作が可能であることを示した。さらに,光熱効果による熱泳動力と光トラップ力とを上手くデザインすることで,大小2種の粒子のうち小さい粒子の選択的光捕捉を達成した。ガラスキャピラリー内に分散した種々のナノ粒子に対し,散乱力で粒子が輸送される様子をリアルタイムに観察し,粒子にかかる散乱力の定量的な評価を行った。超解像光トラッピングの実証に向けた実験系の検討を行った。低温超流動液中及び気相の実験では,NV中心を含むナノダイヤモンド粒子を対象として実験を進めた。超流動He中に外部から導入したナノダイヤモンドを分散させることに成功し,光圧によりビームに沿った運動制御を行えること,室温の光操作に比して粒子速度が大きいことを見出だした。また有機溶媒の液滴を用いたナノダイヤモンド粒子の緩衝気体中への分散実験に取り組み,気相中に孤立しても蛍光が消光せず,光操作が可能であることを確認した。電場と光励起を組み合わせた新たな光操作法を提案してその検証実験を行い,10 nm未満の量子ドットを常温液体中でも操作可能であることを実証した。また共同研究[B]における階層構造創製に寄与する計測法の一つとして,円偏光二色性顕微鏡の技術向上をさらに進め,金属ナノ構造によるキラル結晶核生成の実験を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
常温液中実験,低温実験ともに,共鳴・非線形光捕捉の定量的な解析と新たな光圧様式創出のための実験システムの構築,気相中へのナノ粒子分散のための液滴導入のための装置等,系を評価する装置や光圧による挙動を観測する装置の構築・性能向上は着実に進行している。マイクロ流路と光圧駆動を組み込んだ,微粒子の光分離抽出システムを新たに開発し,サブミクロンスケールのサイズの違いを連続的に分離して抽出することに成功した。また,ヨーグルトに含まれる複数種の乳酸菌の種別分離等を行い,本システムの有効性と分離精度を確認した。現在,多層カーボンナノチューブの分離の実験に着手している。円偏光を用いたキラル金ナノ微粒子に対する光圧実験では,光捕捉力に対する偏光の掌性の依存性を明確に示すことができ,新たな光制御の次元を開拓することができた。昨年度に最初のデモンストレーションを達成した多光子吸収や誘導放出などを用いた非線形・共鳴光操作に対して,より詳細なデータを蓄積することができ,さらに過渡種(励起状態分子)の吸収による光操作も実証できた。また,熱泳動力と光捕捉力のデザインによる選択的光捕捉など,従来の光捕捉では達成できなかった新たな光捕捉法の開発にも成功した。超流動He中及び気相の実験では,ナノダイヤモンド粒子の導入及びそれを対象とした光圧実験が可能となった。捕捉・操作の対象とするナノ微粒子の分光特性の解明についても,A03班で作製された新たな半導体ナノ粒子の光学特性評価やA03班との共同研究による光圧実験に最適なサイズの半導体微粒子の合成,A04班で合成されたナノ粒子の光圧制御など,班内・班間共同研究が進展している。次年度の非線形・共鳴・偏光の効果を生かした光圧実験の進展に向けた準備が進んでいる状況であり,概ね順調に推移していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
光圧によるナノ物質操作の自由度を拡張していくため,現在各研究グループで進めている実験配置の確立,性能向上,精緻化をさらに進め,各研究グループの特徴的な光圧操作法,評価手法等の技術を共有して共同研究を進める。常温液相の実験では,共鳴・非線形捕捉における光圧計測,捕捉ポテンシャルを実測する実験を引き続き実施し,非線形光学過程による光操作の学理を構築する。また,デザインされた光場で誘起される誘導放出過程を用いた超解像光捕捉を実現し,光操作の自由度をさらに拡大可能な方法論を開拓する。キラルナノ微粒子の円偏光による光圧制御の可能性の追求を継続する。多色・多方向光照射トラップでは,これまでに得られた,光化学反応による光圧制御,多光子吸収による光圧などの知見を生かし,複数粒子の選択的同時輸送実験を実施すると共に,より微小なナノ物質操作に挑戦する。また,共鳴非線形応答を用いた化学反応誘起や量子状態変調とそれによる光圧の変調に引き続き挑戦し,種々の励起状態による光圧変調など,さらなる方法論を探索する。新たに開発した微粒子抽出システムをさらに改良し,流路のスケールをサブミクロンに縮小して再設計し,ナノスケールでの流体の性質と光圧とを効果的に組み合わせる検討を行い,単層カーボンナノチューブに対して連続的な分離・抽出を可能とするシステムの創出を目指す。低温液体中・気相中の実験では,蛍光ナノダイヤモンドなど,環境中に導入した粒子の光照射による運動操作を実験的に検証する。複数ビームを用いた線形及び非線形光マニピュレーションについて,詳細な実験計画を立案し,実施する。 これらの研究で得た光捕捉技術は,班間共同研究[A]や[C]において特定の光学特性を持つ微粒子を選択的に特定の位置に集め配置するための技術として用いる。また関連する光特性計測技術も,班間共同研究[A]や[B]において有効に用いる。
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