研究領域 | 光圧によるナノ物質操作と秩序の創生 |
研究課題/領域番号 |
16H06507
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
尾松 孝茂 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (30241938)
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研究分担者 |
坪井 泰之 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (00283698)
飯田 琢也 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10405350)
鳥本 司 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (60271029)
杉山 輝樹 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (80397687)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 光圧 / 光トラッピング / 光渦 / プラズモン / キラル結晶化 |
研究実績の概要 |
[1]触媒システム:ZAIS-QDの合成・物性制御法を独自に開発し、液相合成条件制御によって、組成・サイズ・形状の自在制御を可能にした。さらに、ライス形ZAIS-QDと八面体Au粒子をそれぞれ油相および水相に分散させ、油-水の液-液界面においてこれらの2種類の粒子を同時にレーザートラッピングして濃縮することに成功した。 [2]結晶成長技術:金属ナノギャップ構造によるプラズモン増強電場を用いたNaClO3のキラル結晶化に挑戦し、鏡像体過剰率を50%まで向上させた。微小液滴中のレーザートラッピング結晶成長法を開発した。この手法を用いると、液滴内のすべて溶質が自然拡散によって単結晶成長へと供給されるため準安定相NaClO3結晶だけを選択的に結晶化できることが分かった。 [3]階層構造創成:アゾポリマーに円偏光を照射すると、円偏光のスピン角運動量が軌道角運動量に変異するスピン―軌道相互作用を介し、アゾポリマーが螺旋構造に変形することが分かった。また、光硬化樹脂に光渦を照射すると、重合反応に軌道角運動量が作用して、螺旋状のポリマーファイバーができることを発見した。従来の光圧理論だけでは説明できない巨大質量の変形は、高度な秩序化に大きく寄与する。分子配向が異なるJ会合体とH会合体を選択的にプラズモントラップできることを実証した。また、プラズモン局所加熱を排除できるシリコンナノ構造体を活用した非プラズモニック非サーマル光トラッピング法を開発した。さらに、共鳴型と非共鳴型のナノ粒子の混合溶液の中から非共鳴型ナノ粒子だけを選択的に光捕捉することにも成功した。 [4]新理論の構築:多数のナノ粒子が分散した系をモデル化して光渦の軌道角運動量とスピン角運動量の相対的な符号を反転させると粒子集団の回転運動速度が顕著に変化することが分かった。この研究は光圧をトリガーとした巨大質量の変形の解明につながる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「触媒システム」「結晶成長技術」「階層構造創成」などのための個別要素は大きく進展し、「多粒子相互作用の選択的制御による構造と現象の創造」の具現化の目途が立った。 また、光渦発生などの光制御技術を共通基盤技術として連携体制を構築し、光渦照射による紐状の新奇金ナノ構造体の創成、光渦によるキラルな質量移動の理論解析、さらには、光渦を光源とする光トラッピング結晶成長法の提案、キラルな質量移動における分子配向度の可視化、光渦照射による低次元物質の物性変化の光電子分光解析などの共同研究を推進した。 この連携体制を経て得られる研究成果は、例えば、色素会合体を選択的にかつ階層的に配列して新奇機能を発現する構造体を創る技術などに展開が期待できる。 プラズモン局所加熱を排除できるシリコンナノ構造体を活用した非プラズモニック非サーマル光トラッピング法は採択時には想定していなかった。多粒子相互作用を選択的に制御する自由度を格段に向上させるこの研究成果を用いると、大量の微粒子を局所的に高濃度捕捉(さらには結晶化)できる可能性がある。そこで、非プラズモニック非サーマル光トラッピング法を用いた結晶化技術を新たな課題として研究計画に加えた。
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今後の研究の推進方策 |
[1]触媒システム:ZAIS-QDの液相合成と光学特性制御が達成されるとともに、ZAIS-QDと八面体Au粒子を油-水界面において同時にレーザートラッピングして濃縮することに成功した。そこで、トラッピング光をオフにしても、これら粒子を会合・組織化させるために、化学的あるいは光触媒的な粒子間の架橋を行う。得られる新奇金属-半導体ナノ複合QDの光学特性・触媒活性を解析し、粒子間のヘテロ接合が及ぼす影響を解明する。さらに、サイズの小さなタンパク質などの生体分子を金属あるいは半導体ナノ粒子ともに液-液(あるいは気-液)界面で同時に濃縮することで、生体分子-ナノ粒子からなる新奇ナノ複合構造体の作製を行う。 [2]結晶成長技術:円偏光と金属ナノギャップを用いたNaClO3の結晶化において、ナノギャップ構造の最適化や光渦の軌道角運動量などを駆使して、鏡像体過剰率(現在、50%)をさらに向上させる。また、NaClO3に代わる材料のキラル結晶にも挑戦する。 [3]階層構造創成:アゾポリマーに超短パルス光渦を照射して多光子吸収による局所的な光異性化を誘起することで回折限界を超えた微細なキラル表面レリーフの形成に挑戦する。 また、採択時には想定していなかった非プラズモニック非サーマルトラッピング法の原理を明らかにするとともに、これまで実現できなかった10nm 以下のナノ物質(タンパク質分子など)の捕捉に挑戦して高濃度捕捉に立脚した新たな結晶化法の開発を目指す。
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