研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06509
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塩谷 光彦 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60187333)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 配位アシンメトリー / 金属錯体 / 非対称配位圏 / 不斉合成 / 不斉吸着 / 不斉誘導 / プロキラル分子 |
研究実績の概要 |
本研究は、金属元素を立体制御、反応場、物性発現の場と捉え、従来未開拓であった金属錯体における非対称配位圏の設計・合成と異方集積化法を理論・実験・計測により開拓することを目的とした。平成28年度は、非対称配位圏を有する金属錯体の設計・合成法の開発を進めた。具体的には、 ① キラルな四面体Mabcd型金属錯体の分子設計と合成:非対称なアキラル三座配位子とキラル単座配位子を用いた、動的な四面体キラリティー誘導を分子設計した。金属イオン上のキラル単座配位子はアキラルなプロキラル分子と交換することにより、記憶されたキラル構造の中で不斉反応が起こることを期待している。また、二つの異なる非対称なアキラル二座配位子を用いて、キラルな四面体Mabcd型金属錯体を設計した。これは、光学分割あるいは自然分晶によりホモキラルな錯体を得る予定である。いずれも、不斉触媒反応および異方集積化の単位構造として応用する予定である。 ② 多孔性超分子金属錯体結晶のナノチャネル表面への不斉表面吸着:鏡像体対のゲスト結合部位に対して、ホモキラルな分子とプロキラルな分子を共包接させ、プロキラルな分子の面選択的吸着を達成した。現在、この現象を利用した面選択的不斉反応を検討中である。また、ナノチャネル中ではバルク溶液では起こらない異常な反応が起こることを見いだした。 ③ 金属錯体の対称性変化を利用した分子ギアシステム:金属中心に複数の回転子を結合した分子ギアを合成し、外部刺激による回転子のかみ合いを可逆的に制御した。 ④ 金属錯体の面選択的表面吸着:平面性の高いプロキラルな金属錯体を用いて、キラルな化学的環境を有する基板表面における面選択的吸着を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① キラルな四面体Mabcd型金属錯体の分子設計と合成:ジイミンの一方にペンダント配位子を有する非対称なアキラル三座配位子とホモキラルなスルホキシド単座配位子を用いて、四面体型錯体の不斉合成を検討している。生成する錯体は、スルホキシド配位子のイオウ中心と金属中心にキラリティーを持つため、ジアステレオ選択的反応が期待される。金属中心に配位できる基質を用いて、キラル配位子との交換による基質の活性化と記憶されたキラル構造上の不斉反応を行っている。従来にない動的キラル触媒の開発につながることが期待される。また、二つの異なる非対称なジイミン型アキラル二座配位子を用いて、キラルな四面体Mabcd型金属錯体を設計した。ジカルボニル化合物とアミン化合物の組み合わせにより、様々な構造のジイミン型配位子を合成中である。 ② 多孔性超分子金属錯体結晶のナノチャネル表面への不斉表面吸着:鏡像体対のゲスト結合部位に対して、(R)-あるいは(S)-2-クロロフェニルエタノールととプロキラルなアセトフェノン誘導体を共包接させ、アセトフェノン誘導体の面選択的吸着をX線結晶構造解析により明らかにした。現在、これを利用した面選択的不斉反応を検討中である。また、ナノチャネル中ではバルク溶液では起こらないオレフィン移動反応が起こることを見いだした。A01班の江原Gとの共同研究により、反応機構に関して実験と理論の両面から明らかにした。 ③ 金属錯体の対称性変化を利用した分子ギアシステム:白金イオン中心に二つのトリプチセン型回転子を結合した分子ギアを合成し、光と熱の外部刺激により回転子のかみ合いのON-OFFを可逆的に制御した。 ④ 金属錯体の面選択的表面吸着:平面性の高いプロキラルな環状イミン金属錯体を用いて、キラルな基板表面における面選択的吸着と観測法の開発を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
四面体型金属錯体のキラリティー誘導法の最適化を行い、不斉アルドール反応や不斉Diels Alder反応等に適用する。また、各種分光法および理論計算により反応機構を解明する。 また、上記の方法およびMarburg大学のMeggers教授と共同研究により得られたキラル金属錯体やプロキラル金属錯体を、多孔性キラル超分子金属錯体、キラル表面、キラル媒体を利用して集積させ、それらの構造に特異な異方性物性を探索する。また、キラル金属錯体結晶の円偏光発光性、アキラル配位子を用いるキラル超分子錯体合成、多孔性キラル超分子結晶のチャネル内の光駆動一方向物質輸送、キラル媒体(キラル溶媒、キラル液晶)を用いるプロキラル平面金属錯体の面選択的な表面吸着、キラルジャンクションを有するDNAの自己組織化と構造変換、等を進め、基本単位となる金属錯体の非対称配位圏構造と集積体の構造・機能相関を明らかにする。 領域内共同研究 江原G(A01):理論分子設計、分子間相互作用および物性に関する理論研究、唯G(A01):当該グループで開発したプロキラルなオキシム型平面金属錯体のキラル表面吸着、阿部G(A02):放射光施設を利用したキラル集積金属錯体のX線構造解析、植村(A03):多孔性結晶内の精密モノマー分子配列による高分子へのキラリティー誘導
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