研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06513
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
君塚 信夫 九州大学, 工学研究院, 教授 (90186304)
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研究分担者 |
藤川 茂紀 九州大学, カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所, 准教授 (60333332)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 自己組織化 / アシンメトリー界面 / 金属錯体 / POM / ヌクレオチド |
研究実績の概要 |
本研究は、金属錯体と合理的に設計された有機分子の自己組織化に基づき、配位構造ならびに集積構造の非対称性(アシンメトリー)を実現するための基盤技術と機能創成を図ることを目的としている。本年度は、金属錯体としてアニオン性のヘテロポリ酸(POM)を取り上げ、柔軟なアルキルエーテル鎖を含むアンモニウム塩との水中自己組織化により、巨大POMナノシートが形成されることを見出した。 水中でKeggin型ヘテロポリ酸(M=Mo, W)と柔軟なオリゴエチレングリコール鎖を有するアミンHCl塩(1-H)をモル比1:1で混合すると、コロイド状分散液が得られた。この分散液の電子顕微鏡ならびにAFM観察において、厚み15-30nm, 長辺(1.0-3.5 μm)、短辺(0.5-2.5μm)の巨大ナノシートが観察された。このナノシートは(1-H):H+:POM = 2:1:1を有し、その単結晶構造解析より(1) のエチレングリコールユニットが柔軟なcis型コンフォメーションをとってその断面積をPOMに近づける結果、POMが高密度に2次元配列した巨大ナノシートが形成されていることが明らかとなった。興味深いことに、この巨大POMナノシートは光反応性を有し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて光照射(λ=405 nm)すると、光照射部位のPOMが光還元されて溶解し、部位特異的にエッチング加工することができた。さらに、硝酸銀水溶液中において光照射すると、光照射部位に選択的にAg(0)ナノ粒子が析出した。すなわち、光還元されたPOMナノシートから表面に吸着したAg+イオンへの電子移動がおこり、POMの光還元溶解が抑制されるとともに、ナノシートの表面にAg(0)配線を光描画することに成功した。 このように、光応答性のナノシート界面を金属錯体の自己組織化により構築し、さらに光ナノ加工現象を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
アニオン性の金属錯体ナノクラスター(POM)とオリゴエチレングリコール鎖を有する三級アミン(1)HCl塩を水中で1:1のモル比で混合すると、ミクロンサイズの巨大ナノシートが自己組織的に構築されることを見出した。さらに、その単結晶構造解析にも成功し、硬いPOMと柔らかな有機アンモニウム塩、さらにプロトンの3成分がナノシート形成に必須であることを明らかにした。この(1-H):H+:POM = 2:1:1組成のナノシートを形成できるのは、1-H:POM=1:1の混合組成比の場合であり、1-H:POM=2:1組成で混合すると、(1-H):POM = 3:1組成の不規則的なイオンコンプレックスが得られた。このように、得られた複合体の組成ならびに構造が混合比に依存することは、自己組織化プロセスにおけるエネルギーランドスケープが、熱力学的安定性のみならず、初期組成により速度論的に規定されていることを意味する。 従来、自己組織化は熱力学的に最安定な構造が得られるプロセスであり、混合組成比(初期値)によって、自己組織化により形成される物質の構造や組成が異なるという今回の結果は、初期値に応じて異なるエネルギーランドスケープを辿ること、すなわち速度論的プロセスと熱力学的安定構造の志向性が相いに影響(アシスト)しあった創発現象であることを意味している。このような創発現象によって、ナノレベルで構造制御された自己組織体が得られ、また光照射による還元現象を利用した光溶解現象、さらにPOMナノシート表面にAg(I)イオンを吸着させてAg(0)クラスターの光描画を実現する等、想定されなかった新しい発見があり、当初の計画以上に進展したと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
(1)水中におけるキラルな金属錯体の形成を実現すべく、ヌクレオチドを配位子とするAg(I)錯体の自己組織化について検討を進める。既に予備的に、AMPとAg(I)からナノ粒子が形成されるが、これに等モルのCMPを加えると、Ag(I):AMP:CMP = 3:1:1組成のナノファイバーへと構造変化が起こることを見出した。A01班の江原グループ(量子化学)との班間連携により、エネルギー最適化を進め、ヘテロ(非対称)構造を有するAg(I)錯体の自己組織化現象の本質と全容を明らかにする。 (2)一次元ハロゲン架橋白金混合原子価錯体とキラル脂質からなる脂溶性一次元錯体について、単結晶構造解析が可能なことが判った。ハロゲン種を種々変更して、一次元鎖の電子状態ならびに構造に及ぼすキラル脂質の効果を明らかにする。 (3)脂溶性一次元錯体に、光官能団を導入し、金属錯体ナノワイヤー表面を分子組織場とするフォトンアップコンバージョン システムの開発を行う。
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