研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06514
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
阿部 正明 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (90260033)
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研究分担者 |
杉本 邦久 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 研究員 (00512807)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 金属錯体 / クラスター / ハニカムシート / 発光性 / 超高圧 / 分子歪み / 異方的結晶空間 |
研究実績の概要 |
(1)多核大環状クラスターに発現する多電子移動特性と非対称電荷分布:本年度は多段階可逆なレドックス能を示すRu三核クラスターをコアとし、3配位金属イオンAg(I)を介して交互連結した「積層型二次元ハニカムシート」の合成と構造解析に成功した。対アニオンとなるtriflateイオンには、ハニカムシート内のAg(I)サイトに弱くアキシャル配位するものと、ハニカムシート間を水素結合により橋渡しする2種類があり、それぞれが積層構造の形成に重要な役割を担っていることが示された。 (2)強発光性・二重発光性を示す新規な金属クラスター錯体とその結晶相の構築および異方的結晶空間での超高圧下分子ひずみ・充填構造ひずみ:銅あるいは銀一価の複数の金属イオンで構成される多核錯体は、固体状態において高い発光量子収率を示すものが多く知られている。本年度は、強発光・二重発光性を示すAg(I)キュバン型クラスター[Ag4I4{P(p-tol)3}4]の結晶に数ギガパスカル(GPa)の準静水圧をダイヤモンドアンビルセル(DAC)により印加し、高圧下でのクラスター構造の歪みと発光特性について観察した。高圧下での構造はSPring-8での放射光X線結晶構造解析法により決定した。高圧下での発光スペクトルは、昇圧過程と降圧課程では異なる発光エネルギー変化を示すヒステリシスが観測された。この現象は、昇圧―降圧に伴う結晶溶媒分子の非可逆的な放出プロセスに起因していると推測された。構造解析の結果、溶媒分子を含む空隙はAg4I4骨格の一つの I原子の近傍に位置しており、圧力が加わるとそのI原子が空隙方向へ異方的に押し出され、クラスターコアが異方的に歪むことも示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)多核大環状クラスターに発現する多電子移動特性と非対称電荷分布:本年度は多段階可逆なレドックス能を示すRu三核クラスターをコアとし、3配位金属イオンAg(I)を介して交互連結した「積層型二次元ハニカムシート」の合成と構造解析に成功した。対アニオンとなるtriflateイオンには、ハニカムシート内のAg(I)サイトに弱くアキシャル配位するものと、ハニカムシート間を水素結合により橋渡しする2種類があり、それぞれが積層構造の形成に重要な役割を担っていることが示された。 (2)強発光性・二重発光性を示す新規な金属クラスター錯体とその結晶相の構築および異方的結晶空間での超高圧下分子ひずみ・充填構造ひずみ:銅あるいは銀一価の複数の金属イオンで構成される多核錯体は、固体状態において高い発光量子収率を示すものが多く知られている。本年度は、強発光・二重発光性を示すAg(I)キュバン型クラスター[Ag4I4{P(p-tol)3}4]の結晶に数ギガパスカル(GPa)の準静水圧をダイヤモンドアンビルセル(DAC)により印加し、高圧下でのクラスター構造の歪みと発光特性について観察した。高圧下での構造はSPring-8での放射光X線結晶構造解析法により決定した。高圧下での発光スペクトルは、昇圧過程と降圧課程では異なる発光エネルギー変化を示すヒステリシスが観測された。この現象は、昇圧―降圧に伴う結晶溶媒分子の非可逆的な放出プロセスに起因していると推測された。構造解析の結果、溶媒分子を含む空隙はAg4I4骨格の一つの I原子の近傍に位置しており、圧力が加わるとそのI原子が空隙方向へ異方的に押し出され、クラスターコアが異方的に歪むことも示された。
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今後の研究の推進方策 |
上記(1)の研究において得られたハニカムシート結晶の多量調製法を確立し、この系に期待される固体物性、すなわち結晶面特異的な磁気特性、電気伝導性、誘電性、プロトン電導性について調査する。上記の系では常磁性クラスターコアが反磁性イオンAg(I)により隔てて配列した構造を持つため、シート間構造のデザインにより強磁性体の開発が見込めると期待される。また、リンカー金属イオンとしてAg(I)のほかに、多様な配位幾何構造を与える遷移金属イオンの活用が見込めるので、系の枠を拡大する合成化学も展開する。上記(2)に述べた研究結果については、準静水圧による等方的な圧力刺激に対する異方的な分子変形応答性は珍しい現象であり、結晶格子に空隙を内包する結晶構造においてのみ見られると推定される。次年度は、空隙が完全に消失すると推定される5 GPa以上の圧力領域における構造変化と発光挙動の相関の解明を目指して研究を進める。圧力によって発光エネルギーが可逆的に変化する化合物は圧力センサーとして機能が期待される。本年度示した空隙から溶媒分子放出能は揮発性化合物に対するセンシング機能が期待される。次年度は異方的結晶空間を有する錯体結晶を分散、固定化したポリマー材料の構築を試みる。
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