研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06515
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
彌田 智一 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (90168534)
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研究分担者 |
鎌田 香織 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 進学課程, 講師 (00361791)
金 仁華 神奈川大学, 工学部, 教授 (60271136)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | バイオテンプレート / 金属マイクロコイル / THz帯電磁応答 / 光学活性 / 不斉有機酸 / ポリエチレンイミン / 不斉誘導 / キラルシリカ |
研究実績の概要 |
① らせん藻類スピルリナのバイオテンプレート技術による金属マイクロコイルとその分散シートの作製、およびそれらのキラル機能探索(鎌田・彌田):無電解ニッケルめっきによる強磁性ニッケルマイクロコイルの量産プロセスを開発し、溶融ポリスチレン中の外部磁場配向を検討した。静磁場印可は、マイクロコイルの泳動を伴い、リオトロピック液晶のようなマイクロコイル長軸を揃えた自己集合挙動を発見した。一方、本来の目的である面内水平配向と面外垂直配向は、回転磁場による動的磁場印可が有効であることを明らかにした。すなわち、シート面の鉛直方向を回転軸とする回転磁場では、ニッケルマイクロコイル長軸が垂直配向し、シート面に平行に回転軸とする回転磁場では、回転軸と垂直方向にマイクロコイル長軸が面内水平配向することを明らかにした。これにより、直線偏波のTHz波電磁応答測定において、電場成分に平行なE配向、垂直なH配向、そして進行方向のZ配向の電磁応答を評価した。その結果、1.5 THz付近に大きな正のCotton効果がZ配向分散シートにのみ現れ、光学活性の配向依存性を予備的に明らかにした。さらに、THz帯のMueller Stokes Polarimeterを開発する仙台理研テラヘルツチームによる詳細な偏光特性解析の共同研究を進めている。そのために、配向分散シートの配向純度の向上とその配向度評価の開発が今後の課題となる。 ②不斉有機酸/ポリエチレンイミン(PEI)錯体の不斉誘導無機材料の作製プロセスとキラル機能探索(金仁華):不斉有機酸PEI錯体をテンプレートとするゾルゲル法によるキラルシリカおよび各種キラル酸化物の適用性拡大と紫外・可視スペクトルの円二色性を明らかにした。この成果は、非晶材料ながら、本来対称構造の金属原子配位圏の微小な歪み(配位アシンメトリー)の累積による巨視的な円二色性と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① らせん藻類スピルリナのバイオテンプレート技術による金属マイクロコイルとその分散シートの作製、およびそれらのキラル機能探索(鎌田・彌田):無電解ニッケルめっきによる強磁性ニッケルマイクロコイルの量産プロセスの開発は、作製プロセスの最適化も含めて計画以上に進展している。外部回転磁場によるニッケルマイクロコイルの配向制御に成功したものの、詳細な偏光解析のためには、配向純度を上げる配向プロセスの開発が必要である。 ② 不斉有機酸/ポリエチレンイミン(PEI)錯体の不斉誘導無機材料の作製プロセスとキラル機能探索(金仁華): ③ キラル機能探索の共同展開研究:含界面活性剤シリコンオイル中の局所静電界による微粒子運動を研究する同志社大チームとの共同研究により、ニッケルマイクロコイル一本が、電場方向に泳動することなく、長軸配向、静止したうえで、マイクロコイルの巻き方向に応じて回転方向が反転することを明らかにした。さらに、誘電体微粒子として、無電解めっき前の固定化スピルリナを用いた場合は、回転方向が逆になることも明らかにした(論文投稿中)。この成果は、本マイクロコイルの新しいキラル機能の展開として位置づけられ、今後も共同研究を発展させる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
①らせん藻類スピルリナのバイオテンプレート技術による金属マイクロコイルとその分散シートの作製、およびそれらのキラル機能探索(鎌田・彌田):テラヘルツ帯とマイクロ波領域のアンテナ理論を適用すると、金属マイクロコイル分散シートのTHz電磁波吸収スペクトルは、コイル軸の直交方向に放射するダイポール的なnormal modeと軸方向に広帯域に放射する円二色性のaxial modeに帰属される。特に,コイル形状に依存するaxial modeが本領域キーワード「アシンメトリー」に関連し、光学活性の主因である。このaxial modeをマクロな材料形態(本研究では薄膜あるいは繊維)として顕在化させるためには、マイクロコイルの垂直配向が必須である。すでに予備的に成功しているニッケルマイクロコイルの磁場配向(鎌田)のプロセス最適化と配向度の定量的評価の確立を行う。さらに、仙台理研テラヘルツ分光チームとの共同研究を強化し、配向規定した金属マイクロコイル分散シートのTHz帯Mueller Stokes偏光解析を行い、巨大な円二色性起源を明らかにする。これらの知見より、光アイソレーターなどTHz帯光学薄膜への応用研究にも着手する(彌田)。 ②不斉有機酸/ポリエチレンイミン(PEI)錯体の不斉誘導無機材料の作製プロセスとキラル機能探索(金仁華):キラルシリカおよび各種キラル酸化物の適用性拡大と紫外・可視スペクトルの円二色性の発現起源を調査する。この成果は、本来対称構造の金属原子配位圏の微小な歪み(配位アシンメトリー)の累積による巨視的な円二色性と考えられ、普遍的な現象として、キラル起源の解明をめざす。 ③キラル機能探索の共同展開研究:同志社大チームとの金属マイクロコイルの無軸マイクロモーターの共同研究を発展させる。不斉有機酸/PEI錯体の不斉誘導無機材料のキラル起源については、領域内外の研究者との幅広い連携を広げ、解明の端緒を探る。
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