計画研究
本申請課題では、金属錯体を集積して目的に応じた機能空間を合理的に構築し、柔軟なアシンメトリック空間とゲスト分子の配列や相の変化を利用して、空間とゲスト分子のダイナミクスが連動する特異な機能・物性を探求する。本年度は、主に次の4つの項目について、研究を展開した。(1) 非対称な錯体配位子、架橋配位子および補助配位子を用いたアシンメトリック多孔性金属錯体の合成:昨年度に開発した発光性架橋配位子を用いて、発光性の極性構造を有する配位高分子の合成に成功した。また、正方錐型錯体配位子を用いた配位高分子においては、極性一次元構造の構築に成功し、誘電応答を観測した。(2)骨格構造の段階的修飾:界面構造の修飾を企図して、レイヤーバイレイヤー法により、異なるピラードレイヤー構造を有する配位高分子の交互積層構造の構築に取り組んだ。各層の厚みを変えることで、単独の層とは異なる吸着挙動が発現することを見出した。(3) 多核環状錯体とポリ酸の複合化:環状金属錯体と異なるサイズのポリ酸を同一細孔構造内の異なる位置に配置した、異方的な壁面構造を有する多孔性イオン結晶を用いて、二酸化炭素の吸着能を評価した。相互作用点となるポリ酸の種類と配置により、大きく吸着特性が変化することを見出した。(4) リン脂質界面における金属錯体薄膜形成:発光性の親脂質性錯体配位子を開発し、それをリポソーム外表面に選択的に組み込み、その発光挙動の観測に成功した。錯体配位子を組み込んだリポソームに亜鉛イオンを添加するとリポソームが変形する様子を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて直接観察に成功した。
2: おおむね順調に進展している
研究計画の各項目は、ほぼ予定通りに進展している。(1) では、発光性の極性構造を有する配位高分子、ならびに極性一次元構造の配位高分子の合成に成功しため、偏光発光特性および非線形光学特性の発現に向けての展開が可能になった。(2) では、粒子サイズ制御と表面修飾に加えて、ナノ積層構造への展開も可能になった。積層構造をプログラムすることで、アシンメトリック空間の構築が可能になる。(3) では、系統的に合成した多孔性イオン結晶を用いて、ガス吸着能の評価に展開できた。細孔内壁に異なるポリ酸を合理的に配置することで、異方的な細孔構造とゲスト分子との相互作用の評価を行い、二酸化炭素吸着特性を向上させる指針を得た。(4) では、発光性の親脂質性金属錯体を開発し、リポソーム表面の可視化と配位高分子形成によるリポソームの変形の直接観察に成功した。この手法の確立により、リポソーム膜表面におけるドメイン形成・崩壊や流動性の変化の直接観察への展開も可能になる。
これまでの成果を基盤として、以下の4項目を引き続き推進し、空間アシンメトリーと構造変化、それに伴うゲスト分子の配列や相変化のダイナミクスの研究を展開する。論文未発表のデータが多いので、今年度は積極的な論文発表を目指す。(1) 非対称な錯体配位子、架橋配位子および補助配位子を用いたアシンメトリック多孔性金属錯体の合成:昨年度に開発した発光性の極性構造を有する配位高分子、ならびに極性一次元構造の配位高分子の機能・物性を評価する。特に、誘電特性ならびに非線形光学特性の評価を進める。偏光発光特性については、共同研究でその評価を進め、並行してキラル配位子を導入した化合物の合成も進める。(2)骨格構造の段階的修飾:昨年度に引き続き、積層パターンをプログラムすることでシート構造間の対称性を制御して異方的な場を構築し、ゲスト分子との相互作用の制御、それに応じた物性の制御を検討する。また、ゲスト応答性に関しては、粒子サイズ効果も併せて検討する。(3) 多核環状錯体とポリ酸の複合化:二酸化炭素吸着能に加えて、メタンの選択的吸着と変換反応の実現を目指して、構造並びにポリ酸の組み合わせを最適化する。(4) リン脂質界面における金属錯体薄膜形成:リポソーム表面における配位高分子膜の形成反応とリポソームの変形ならびに発光特性変化の相関を、直接観察から明らかにする。更に、ドメイン形成・崩壊や流動性の変化の直接観察にも展開する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (46件) (うち国際学会 20件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
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