計画研究
本研究では、配位構造や骨格がアシンメトリーをもつネットワーク構造体・金属錯体材料に注目し、形状や結晶構造がスピンや格子振動等に及ぼす効果を検討することを目的としている。本年度は、反転対称性が破れた結晶構造を有するアシンメトリックな3次元ネットワーク構造体RbMnFe電荷移動錯体に着目し、新たに構築した温度可変型の広帯域遠赤外吸収分光測定系を用いて測定を行うことにより、この物質が示す格子振動を観測した。また、RbMnFe電荷移動錯体において時間分解X線吸収微細構造分光測定を行い、この物質の光誘起状態の電子状態を調べた。RbMnFe電荷移動錯体は、室温ではMn(II)-Fe(III)の状態であるが、温度を下げると電荷移動型相転移を示し、低温ではMn(III)-Fe(II)の状態となる。前者の状態を高温相、後者の状態を低温相と呼ぶ。この物質は、-Mn-NC-Fe-が立法晶系の3次元骨格を構築するネットワーク構造体であり、骨格が作る空孔に周期的にアルカリカチオン(Rb)が取り込まれており、このRbの配置が反転対象性を破ったアシンメトリックな構造を作り出している。本研究では、温度可変な広帯域遠赤外吸収分光測定系を新たに構築し、RbMnFe電荷移動錯体の高温相と低温相の格子振動をそれぞれ観測した。その結果、100cm-1以下の低エネルギー領域にはルビジウムイオン単独の振動が、100cm-1~700cm-1の中エネルギー領域には金属とシアノ基の結合に由来する振動が、2000cm-1程度の高エネルギーにはシアノ基の伸縮振動に由来する振動が観測され、高温相と低温相では異なるエネルギー位置にピークが現われることを観測した。また、時間分解X線吸収微細構造分光測定では、この物質の光誘起電荷移動がピコ秒オーダーで起こることを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
広いエネルギー領域のスペクトルが測定可能な温度可変型広帯域遠赤外吸収分光系を構築することができた。この測定系を用いて、実際に電荷移動錯体において測定を行い、アルカリカチオンの単独振動、金属とシアノ基の結合に由来する振動、シアノ基の伸縮振動に由来する振動を、明瞭に観測することができた。このように、ネットワーク構造体の骨格の空孔に捕捉されたアルカリカチオンが単独で振動する様子が遠赤外分光で観測されたことは非常に珍しく、たいへん貴重な例であった。また、温度を変化させて測定を行うと、アルカリカチオンの単独振動はほとんど変化しなったものの、金属とシアノ基の結合に由来する振動、シアノ基の伸縮振動に由来する格子振動のピークがはっきりと変化する様子が観測され、観測されたピークの帰属を行うことにより、電荷移動相転移に伴う格子振動の変化を明らかにすることが出来た。また、当初計画していなかった結果として、時間分解X線吸収微細構造分光測定を行うことにより、RbMnFe電荷移動錯体の光誘起電荷移動がピコ秒オーダーで発現し、また光誘起電荷移動の寿命が1-10マイクロ秒程度であることが明らかになった。
これまでに、反転対称性が破れたネットワーク構造体で空間群F43mの立方晶系であるRbMnFe電荷移動錯体について、実際に物質を合成し、構築した温度可変型広帯域遠赤外吸収分光系を用いて、物質の格子振動を観測した。その結果、アルカリカチオンの単独振動、金属とシアノ基の結合に由来する振動、シアノ基の伸縮振動に由来する振動を明瞭に観測することができた。また、電荷移動相転移に伴う格子振動の変化を明らかにすることができた。この物質は、-Mn-NC-Fe-骨格が3次元骨格を構築するネットワーク構造体であり、骨格が作る空孔に周期的にアルカリカチオン(Rb)が取り込まれ、このアルカリカチオンの配置が反転対象性を破ったアシンメトリックな構造を作り出している。今後は、骨格が作る空孔に取り込まれるアルカリカチオンの周期を変化させ、反転対称性を破らない非アシンメトリックな構造を有する類似体ネットワーク構造体を合成して温度可変型広帯域遠赤外分光測定により格子振動の測定を行い、アルカリカチオンの単独振動、金属とシアノ基の結合に由来する振動、シアノ基の伸縮振動を観測し、これらの格子振動において、反転対称性が破れた結晶構造体との違いを比較し、アシンメトリックな構造が格子振動に及ぼす影響を検討する予定である。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (3件)
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