金属・半導体を構成要素とするナノ粒子は、光・電子・磁気物性において優れた一次物性を示す。さらに、その構造や電子状態の非対称化により、光学活性やスピン偏極をはじめとした高度な物性の創発が期待される。一方、無機物質の特徴は無機結晶ならではの構造堅牢性にある。すなわち、応答性や柔軟性などの特徴は有機物の高次構造や金属錯体の配位構造特有のものであり、無機結晶とは縁遠い性質であるというのが共通認識とされてきた。本年度は、無機結晶の構造制御剤としてキラル有機配位子を用い、ナノ粒子の構造非対称化に取り組み、ナノ粒子特有の高度な構造制御性を見出した。具体的には、キラルな原子配列を最安定相として有するシナバー(硫化水銀)ナノ粒子において、有機配位子のキラル配位構造の安定性とシナバー晶の対掌性に依存したViedma ripeningの機構に基づく粒子成長とシンクロしたエナンチオ純度向上機構を実証した。 また、キラルな原子配列を有するAg29(dithiolate)12の銀クラスターにおいて、キラル二座配位子構造、クラスター内表面相互作用、クラスター間相互作用に基づく、キラル増幅、抑制、反転など、クラスター特有の柔軟性に基づく、キラル応答挙動を見出すことに成功した。
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