研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06523
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
二瓶 雅之 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (00359572)
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研究分担者 |
大塩 寛紀 筑波大学, 数理物質系, 教授 (60176865)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 非対称 / 電子移動 / 多核錯体 / 磁性 / スイッチング |
研究実績の概要 |
キラリティーと電場や磁場などの外場との相互作用の基づく電子機能の開発には、物質の対称性を高度に制御することが重要である。本研究では、非対称電子移動ユニットが示す指向性電子移動に着目し、分子における電子配置の動的制御を基盤とする対称性制御を達成する。さらに、そのような電子系アシンメトリーユニットを異方集積化し、電気・磁気双極子の配向を制御することで、異方性電子機能の発現を目指す。 平成28年度は、主に電子系アシンメトリーユニットの合成について研究を行った。具体的には、分子内で指向性電子移動を示す新規鉄-コバルト環状四核錯体の合成を行った。シアン化物イオンで架橋された鉄-コバルト錯体は、補助配位子によって各金属イオンの酸化還元電位を適切に制御することで、熱・光に応答して分子内電子移動を可逆に示すことが知られている。本研究では、補助配位子としてテトラメチルフェナントロリンを用いた新規環状四核錯体を合成した。本錯体は、温度変化により分子内電子移動を伴う急激な構造相転移を示し、反磁性状態と常磁性状態を可逆に変換可能であることを見出した。さらに、電気化学測定から本錯体が可逆な四段階一電子酸化還元反応を示し、非対称な構造・電子状態をもつ混合原子価状態を与えることも見出した。今後は、本錯体の混合原子価状態の単離と集積化について検討する。 また、外部刺激に誘起される分子内一電子移動によって構造・電子状態の対称性変換を目的とし、シアン化物イオン架橋直線型三核錯体の合成を行った。その結果、シアン化物イオン架橋鉄コバルト三核錯体を得た。しかしながら、本錯体は温度変化に伴う分子内電子移動を示さなかった。これは、鉄イオンとコバルトイオンの酸化還元電位が比較的離れていることに起因すると考えられる。今後は、補助配位子を最適化することで分子内指向性電子移動を示す非対称電子移動ユニットを開発する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、非対称電子移動ユニットの異方性集積により集積体における電気・磁気双極子の背向を制御することで、異方性電子機能を発現させることを目的とする。研究の推進方法としては、以下の三つのステップに分けて行う。1)電子系アシンメトリーユニットの構築と外部刺激誘起電子状態変換の達成、2)電子系アシンメトリーユニットの水素結合による集積化と次元性制御法の確立、3)集積体における指向性電子移動に基づく動的対称性制御と異方性電子機能の発現。本年度は、1)の電子系アシンメトリーユニットの構築について検討を行った。その結果、外部刺激誘起電子移動を示す新規環状四核錯体の合成に成功した。本錯体は四段階の可逆な酸化還元挙動を示し、非対称な構造・電子状態をもつ混合原子価状態を与えることから、電子系アシンメトリーユニットとして有用である。また、外部刺激誘起電子移動を示す直線型三核錯体の合成について検討を行った結果、シアン化物イオン架橋直線型三核錯体を得ることに成功した。本錯体は、外部刺激誘起電子移動を示さないものの、本研究で見出した三核錯体合成法を基に補助配位子を最適化することで、目的の電子系アシンメトリーユニットが得られると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成28年度で得られた電子系アシンメトリーユニットにおける外部刺激誘起指向性電子移動の制御とユニットの水素結合による集積化法の確立について検討を進める。電子系アシンメトリーユニットに関しては、環状四核錯体の化学的還元による混合原子価錯体の単離を行う。得られた錯体における電子の非局在化の評価を分光学的手法により明らかにするとともに、プロトンアクセプター性や外部刺激応答性について明らかにする。また、直線型三核錯体については、補助配位子の化学修飾により金属イオン間の酸化還元電位差を最適化し、外部刺激による分子内指向性電子移動の発現を目指す。さらに、ユニットの集積化については、水素結合ドナーアクセプター相互作用を利用した次元性制御集積化法を確立する。上記の電子系アシンメトリーユニットは、弱い塩基性を示す複数の末端シアノ基を有することから架橋性プロトンアクセプターとして機能すると期待される。これを利用し、適切な水素結合ドナーと組み合わせることで集積構造と電子状態の階層性を制御可能な集積化法の確立を行う。
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