研究領域 | 多様な「個性」を創発する脳システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
16H06525
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
保前 文高 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (20533417)
|
研究分担者 |
渡辺 はま 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任准教授 (00512120)
|
研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
|
キーワード | 発達脳科学 / 乳幼児 / 個性 / 身体運動 / 言語獲得 |
研究実績の概要 |
本研究は、乳幼児期における脳の構造と機能、行動と意識を包括的に捉えて、個人の持つ固有性がどのように現れて発達するのかを検討し、神経活動と身体運動における動的秩序生成の多様性に基づいて「個性」の発現と発達を記述する枠組みを構築することを目的としている。 初年度にあたる平成28年度は、計測が安全に行える環境であることを確認して、研究実施機関それぞれの研究倫理委員会の承認を得た上で、研究参加者の募集を開始した。脳機能に関しては、安静睡眠時の6か月児における脳の自発活動と、音声に誘発される活動を多チャンネルの近赤外光脳機能計測装置(NIRS)で計測した。また、3か月児の安静睡眠時に音声を提示しながらNIRSで左右半球47か所ずつ合計94か所の活動を約15分間計測したデータから、領域間の機能結合を指標化して検討した。最初から7分半と最後から7分半のデータに分けて、それぞれのデータから領域間の相関を求め、個人ごと、また、7分半のデータごとに相関行列を作成した。この相関行列が各個人の2つの間で、他の被験者から得られた相関行列よりも関連性が高いかを比較した。20名のデータを用いると、19名では、自分自身のデータとの一致度合いが高かった。さらに、領域ごとに他の領域との関係性が個人によって異なりやすいところはないか、ということを調べると、左半球の外側前頭葉と後頭頭頂領域では、個人ごとの特徴が有意に現れることが明らかになった。脳の構造については、National Institute of Mental Health (NIMH)が公開しているデータベースを精査して、縦断的な検討ができるデータセットについて検討を進めた。身体運動については、自発運動の解析が可能な乳児期初期のデータを整理し、個体を特定するための時間パターンを検出する方法を検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、脳の音声に対する活動を反映した機能ネットワークに基づいて、乳児の「個性」が特定の脳領域において見いだされることを明らかにすることができた。また、脳構造や身体運動における個性を検討するためのデータセットを準備し、次年度以降に研究を進展させる土台を作ることができた。研究を進めるにあたって必要な環境を整えて、計測装置や資料等をそろえることができたため、次年度以降に向けて順調に進められている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度に準備したデータや方法を用いて、研究を進める。機能ネットワークに基づいた解析では、外側前頭葉と後頭頭頂領域に個人の特徴が現れる傾向があることが捉えられたため、脳の構造に関してもこの知見を活かした解析を行う予定である。具体的には、脳の形態形成と機能構築のいずれにとっても重要になる脳梁に関して、検討を進める。その際に、上記の領域を左右半球間で連絡させる脳梁の部位に特に注目する。身体運動に関しては、最初に3か月齢乳児のデータを用いて、自発運動に含まれる個性を特定する時間パターンを検出する。単語の獲得に関する質問紙調査も進める。また、発達期の検討の一環として、思春期初期の第二言語習得における脳機能計測と行動指標の解析を進めて、個人のデータから特に男女差に注目して検討する。
|