研究領域 | 多様な「個性」を創発する脳システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
16H06525
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
保前 文高 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (20533417)
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研究分担者 |
渡辺 はま 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任准教授 (00512120)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 発達脳科学 / 乳幼児 / 個性 / 身体運動 / 言語獲得 |
研究実績の概要 |
研究は、乳幼児期における脳の構造と機能、行動と意識を包括的に捉えて、個人の持つ固有性がどのように現れて発達するのかを検討し、神経活動と身体運動における動的秩序生成の多様性に基づいて「個性」の発現と発達を記述する枠組みを構築することを目的としている。 脳の構造について、National Institute of Mental Health(NIMH)Data Archive(NDA; Almli et al., 2007)を参照し、ヒトにおいて左右大脳半球を結ぶ交連線維束であり、白質の形成および多様な神経機能の発達に関して重要な役割を果たす脳梁の乳児期における形態変化を定量的に解析した。NDA データベースから、異なる3時点の月齢のすべてにおいて MRI 撮像を行っている40名の脳梁を抽出し、Witelson(1989)による 7 領域分割を実施するとともに、各領域におけるセミランドマークの設定と CC の厚みの計測を行った。セミランドマークの座標に対して形態測定学的な解析を行った結果、CC の形状が、個の性質として決定される成分と、発達的に変化する成分によって構成されることを見出した。 身体運動に関しては、個体を特定できるような身体の形態情報の集合を「個性」の操作的な定義とし、乳児の自発運動に含まれる個体を特定するための時間パターンの検出を試みた。3か月齢の乳児25名のデータを対象とし、時間遅れ座標系を用いた高次元再構成状態空間への埋め込みをおこない、非線形予測法を用いて、後半の各データが前半の25名分のデータのいずれを予測するかを検証することにより、後半のデータが自身の前半のデータを予測可能か検討した。その結果、76%の確率で個人の特定が可能であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、乳幼児の脳の構造と自発運動に含まれる「個性」を検出する方法を検討することを目指しており、有効な方法の特定に至ることができ、予定通りの進捗であった。脳の機能計測、および、単語の獲得に関する質問紙調査も進められている。また、発達期の検討の一環として、思春期初期の第二言語習得における男女差の検討を進めることができ、論文として報告した。日本語使用環境に育った中学生が英文を聞きとる際に脳活動と行動指標のいずれにも男女差が現れ、男子は統語情報を、女子は音韻情報や意味情報、短期記憶を重点的に使用して文の処理をしていることが示唆された。また、領域内における集会や講演会を通じて、「個性」を捉える方法や「個性」の定義について議論する機会を持つことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に検討した方法を用いて、研究を進める。脳の構造に関しては、脳梁に関して得られた知見を論文としてまとめる。また、大脳皮質の特徴を抽出する方法を開発し、脳梁の発達と合わせて個の性質として現れる変化を捉える。脳機能計測に関しては、縦断的な計測をする方法を検討する。身体運動に関しては、100名の3か月齢乳児のデータより、自発運動に含まれる個性を特定する時間パターンを検出するとともに、同数の2か月齢の乳児のデータも解析することにより、「個性」を生み出す特徴表出の発達的特性を明らかにする。得られた知見から、自己組織的に生じる多様性、経験に基づく変容、器質による制約のもとで個性が創発される枠組みをモデル化することを検討し始める。
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