研究実績の概要 |
主要な個人差測度についてのデータベースをもとに、認知・行動面の表現型の個人差モデル上の特徴が明確な個人を対象として、MRIによる脳撮像を行い、その多面的解析を行うことで、認知的能力やパーソナリティなどの基本的個人差変数と対応した脳構造の特徴を検討する作業を進めた。現時点では,ASD(自閉症スペクトラム傾向)を指標とした脳構造の個人差の特徴について,MRIによる脳撮像データをもとに解析中である。 また、課題負荷時の皮質活動の計測データによって、脳の機能的な特徴と認知・行動上に表れる個人差の主要な対応関係を明らかにする目的で,本年度は,1)自動的模倣の個人差と皮質活動の個人差の対応関係,2)社会的認知処理時の個人差と皮質活動の個人差の対応関係について fNIRS を使用して測定を行った。前者では,ディスプレイ上に実験参加者と向き合った状態の上半身(肩から胸までと両腕)を呈示し,参加者の課題遂行にシンクロして左右いずれかの腕を前方に延ばす動作をする。このとき視覚的同側性(参加者の右手の動きは画面上向き合った左手の動き=鏡映像)条件と,身体的同側性(参加者・画像ともに右手の動き)条件があり,前者の方で自動的模倣が生じる傾向が強い個人は共感性が高いと考えられている。この個人差と対応した皮質活動上の個人差を探索した結果,右中心前回,右中前頭回,右下前頭回,右眼窩部(fNIRSでの23,24,34,35,44,45ch)においてoxy-Hbに差が見られる傾向が確認された。また後者では,両眼図形による視線刺激と矢印刺激条件を使用した Eye-gaze Simon effect実験パラダイムで反応時間を測定し,同時にfNIRSにより皮質血流を記録し分析を行った結果,視線条件では主として右中前頭回部(24,25,35,36,45,46ch)の oxy-Hb にRTと負の相関が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に引き続き,心理・行動的表現型の基本的個人差次元のモデル化の基礎となるデータベース作成を進める。具体的には,認知的能力(CAT, Cubic Operation Task),パーソナリティ(EPQ-R, NEO-PI-R, HEXACO-PI, TEIQue),認知スタイル(EQ/SQ),その他(PDQ4, SPQ, AQなど)の回答データを年間500程度収集し,累積データの分析によるデータベース作成を進める。 また,脳画像データの収集に関しては,研究分担者を中心に,MRI画像の収集を,基本的な心理検査データと合わせて収集を進める。 脳の機能的な個人差指標と脳活動の関連性に関しては,引き続きfNIRSを使用して,認知負荷時の皮質血流状態の測定・記録と,認知課題のパフォーマンスの関連性を分析するが,認知的課題としては,注意のトップダウン効果とボトムアップ効果の条件を組合せ,認知スタイルの個人差との関係を検討することに加え,パーソナリティの基本次元に関連するBIS/BASモデルとの関連性も検討する予定である。 さらに,個人差の基本次元モデルの構築に当たっては,A03グループとの連携により,データベースを使用した数理モデルによる検討を進める。また,公募班との連携により,認知負荷時の脳の活動状態の個人差について,皮質血流状態では測定できない深部脳の活動状態(特に,海馬,扁桃体,視床など)について,fMRIを使用した実験計画を検討し,年度内に予備実験を実施することを目標としている。同様に,別の公募班との連携により,BIS/BASモデルのマウス実験への適用可能性を検討するための予備実験を考案し,基本的個人差・個体差次元のヒト=マウス共通モデルの可能性を検討する。
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