計画研究
AUTS2遺伝子には様々なタイプの変異(一塩基置換、部分欠失、部分重複、その他)が入ることによって、いわゆる自閉症や統合失調症、ADHD様の様々な個性が出現する。変異の入る部分は、AUTS2機能を担うタンパク質部分というよりも、イントロンや5'上流の遺伝子発現を調節すると考えられる部分であることが多い。しかし、死後脳解析がまだ行われていないために、それぞれのヒトでどの部位の遺伝子発現が異常になっているのかはわからない。本年度は、前年度からの研究に引き続いて、ヒトのAUTS2ゲノム領域のBAC トランスジェニック(BAC-Tg)-LacZマウスを作成し、どのゲノム領域にどのようなエンハンサー活性があるか調べた。新たに4系統を作成したところ、大脳皮質で発現するエンハンサーを含むゲノム領域を同定することができた。オーバーラップするBACの情報から、その領域を20kbにまで縮めることができた。さらにこの領域を縮めた後に、その遺伝子配列をネアンデルタール型に置き換えて、実験を進める予定である。また、前年度に引き続き、終脳特異的、小脳特異的コンディショナルノックアウト(cKO)マウスの解析を行っている。前者では、海馬歯状回の縮小と前頭皮質浅層ニューロンの減少が、後者では小脳の縮小と平行線維のシナプス形成異常が認められたため、電気生理学的解析を行っている。また、両者において、雌雄間コミュニケーション(超音波発声)に、それぞれ異なる種類の異常が認められた。すなわち、AUTS2遺伝子が脳部位で異なる発現様式をとる場合に、その脳の構造や機能には若干の影響が現れ、結果として行動様式(あるいは個性と呼んでも良いかもしれないが)に違いが出てくることが明らかになった。cKOマウスの解析はさらに詳しく行う。
1: 当初の計画以上に進展している
BAC トランスジェニック(BAC-Tg)-LacZマウスの解析については、今年度新たに4系統作製しており、おおむね順調である。しかもその中に、終脳特異的エンハンサーを含むBACを同定できた。しかも、お互いにオーバーラップしたBAC-Tgの解析から、そのゲノム領域を20kbまで狭めることができたのは、とても良い成果である。もう少し狭めて候補エンハンサー配列を抽出できれば、ネアンデルタール型に置き換える実験段階に移行することができる。また、終脳特異的cKOマウスにおいては、二つの大きな発見があった。すなわち、海馬歯状回の縮小と、前頭皮質浅層ニューロンの減少である。前者は記憶の中枢であり、後者は認知機能の中枢であるために、そうした異常は行動様式に影響を与えるであろう。ヒトでは、個性に影響する可能性があるという可能性が示唆されたと言える。さらに、小脳特異的cKOマウスでは、小脳の縮小と平行線維のシナプス形成異常が認められた。小脳は運動制御の中枢と言われているが、最近では高度な認知機能にも関係すると言われてきている。実際に、マウスの音声コミュニケーションに異常が認められた。今後は、これらのcKOマウスの表現型をさらに解析し、マウスの行動にどのような影響が現れるのかを注意深く観察しなければならない。
今後はBAC トランスジェニック(BAC-Tg)-LacZマウスの解析については、さらに系統の数を増やして、そのエンハンサー領域の同定と絞り込みを行う。特に大脳皮質(しかも前側)、および小脳のエンハンサーの同定と絞り込みに努める。ある程度の絞り込みができたら、その遺伝子配列の一部をネアンデルタール型に置き換えたBAC-Tgを作製することになるが、それは平成31年度くらいになると予想される。AUTS2の終脳特異的cKOマウスについては、解剖学的解析に加えて、電気生理学的、行動学的解析を加える必要がある。さらに、我々はAUTS2がシナプス形成に関与するという可能性を見出している。シナプスは脳神経回路の信号伝達の要であり、その機能が影響を受けると、様々な精神疾患を将来したり、あるいは個性の変化などにつながると考えられている。そこで今後は、in vitroおよびin vivo実験を通じて、AUTS2のシナプス形成における役割についても解析を進めていきたい。
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