研究領域 | 生物ナビゲーションのシステム科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06541
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
依田 憲 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (10378606)
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研究分担者 |
牧口 祐也 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (00584153)
塩見 こずえ 国立極地研究所, 研究教育系, 助教 (50756947)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | バイオロギング / 海鳥類 / サケ科魚類 / 野外生理生態 / ナビゲーション |
研究実績の概要 |
1)次世代バイオロギングシステム開発 ■多次元計測(GPS、ビデオカメラ、深度、照度、加速度等)・イベント駆動機構を備えたロギングデバイス「ログボット」を開発し、野生の海鳥やサケ科魚類へ用いるための耐久化を進めた。■ロギングデバイスの遠隔回収システムの開発などを行った。 (2)野外調査 ■動物のナビゲーションデータを取得し、行動・体内・環境情報とナビゲーションの関係を理解可能にする数理モデルを作成するため、オオミズナギドリ、ウミネコ、キバナウ(アルゼンチン)、ペンギン(南極)などに対してバイオロギングを行った。特に、新しく立ち上げたUK(スワンジ大学)との共同研究により、3次元経路復元ロガーをミズナギドリに装着し、データを得た。ログボットからもデータの回収に成功した。■海鳥の雛の海馬に相当する大脳背内側後部に電極を留置し、野外歩行中の神経細胞活動をロガーで記録した。養殖ニジマスをナビゲーションのモデル魚として脳神経ロガーを装着する手法を確立した。自由遊泳時における脳神経活動と遊泳行動について解析を行った。■海鳥の巣立ち幼鳥に衛星発信型GPSロガーを装着し、日本からパプアニューギニアへの長距離ナビゲーションにともなう死亡要因を明らかにした。 (3)データ解析および数理モデル作成 ■マゼランペンギンの移動経路を解析し、ストランディングの雌雄差が生じる要因を発表した。■海鳥に心電図ロガーを装着したデータから、自律神経系活動に個体差が存在し、年をまたいでも維持されることを論文発表した。■移動経路分割に関する新しい手法を論文発表した。■経路をシンボル化し、属性間(雌雄)の違いを検出する機械学習法を開発した。■鳥類のバイオロギングの現在と将来展望に関する総説を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鳥類に関しては、当初の計画以上に行動データを得ることができた。特に、新たに取り組んだ伊豆諸島のオオミズナギドリからは1000 kmを超える長距離トリップを含む移動経路データを取得できた。また、鳥類・魚類ともに、神経活動を含む生理情報を得ることができた。一方、2015年頃からサケの漁獲量が激減し、活魚での親魚確保が困難となり、本年度は放流実験ができなかったため、次年度は傭船して定置網周辺のサケにロガーを装着することで解決する準備を行った。これらを鑑みて、おおむね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)次世代バイオロギングシステム開発 ログボットの開発を継続する。これまでに開発されたログボットと環境駆動発電の安定性や防水性、形状の問題を解決し、両者を統合したログボットを開発する。また、より動物の視点に近い映像を得るため、ビデオカメラのレンズ部とロガー部を切り離したログボットを開発する。同時に、イベント駆動機構をより積極的に活用するアルゴリズムの開発を行う。 (2)野外調査研究 大量データを基にしたAI駆動型ナビゲーション解析を行うため、国内外のミズナギドリ目、ペンギン目、ペリカン目、チドリ目などの海鳥類とサケやサクラマス、ニジマス等のサケ科魚類のナビゲーションをログボット含む多次元ロガーにより測定する。海鳥類の繁殖後の渡りや、サクラマスの降海から母川までの移動や、サケのベーリング海から母川までの移動等の長距離ナビゲーションの多次元計測を行い、その際に利用している環境情報や内的情報を明らかにする。また、適宜動物の血液を採取して、ナビゲーション前後の酸化ストレスや染色体末端部テロメア長を計測し、ナビゲーションが与える生理的影響を定量する。自由活動中の海鳥とサケ科魚類の脳神経活動計測を行う。次年度はさらに対象を拡大し、大槌湾のサケにも装着する予定である。ロガーと音波発信器を装着したサケを放流し、湾内から河川への移動を追跡する。また、海鳥の幼鳥に脳神経活動ロガーを搭載し、探索期における脳内地図形成の可能性を探る。 (3)データ解析および数理モデルの作成 得られたデータを解析し、数理モデルとして記述することによって、環境・内的状態から情報処理を経て移動経路として表出する過程を理解する。
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