研究領域 | 生物ナビゲーションのシステム科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06542
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
飛龍 志津子 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (70449510)
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研究分担者 |
小林 耕太 同志社大学, 生命医科学部, 准教授 (40512736)
福井 大 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (60706670)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 生物ソナー / バイオロギング / 超音波センシング / ナビゲーション |
研究実績の概要 |
本年度は,小型野生コウモリの音響ナビゲーション行動の計測に必要となる,GPS超音波イベントロガーの開発を進めた.途中実施した試作機を用いた調査では個体の回収には至らなかったが,新たにGPSロガーの回収に成功した.野生下のキクガシラコウモリが移動と停滞を繰り返しながら飛行する様子が初めて確認できた.また基点を中心に花びら状に行き来するforay search型の飛行ルートがいくつか見られ,コウモリの探索行動の1種であると考えられた. また中規模のナビゲーション行動の分析として,水面上で採餌を行うモモジロコウモリを対象として,3次元軌跡の分析を進めた.大規模と同じ基点を中心とした探索行動がここでも見られ,また哨戒距離を反映する探索中の超音波の放射間隔が,採餌頻度(餌の密度)に応じて異なることもわかった.また水面上に現れる各個体毎に,採餌ポイントやその時間間隔についてマイクロホンアレイシステムを用いて追跡することに成功し,完全野生下での各個体の採餌効率に関する重要な基礎的データを得ることができた. 室内では,未知および既知空間での音響ナビゲーションの変化を調べるために,障害物ルートを繰り返し飛行させ,その際の3次元飛行軌跡や超音波の放射方向の変化について調べた.障害物を音響的に見通しが効くチェーン列と見通しが効かないアクリル板を用いたところ,空間の学習が進むに従い,飛行軌跡やエコーロケーションが効率化される様子が確認でき,見通しが効く場合はより遠くにソナーの注意方向が向いていることも確認できた. 自由行動下のコウモリからの神経活動を記録するため,小型ニューロロガーの開発に着手した.並行して行動実験の計測システムの構築と,対象種や行動課題について検討を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野生コウモリの長距離ナビゲーションの追跡を行うため,GPS座標とともにコウモリの発する超音波をイベントで記録するロガーの開発を進めた.試作途中のロガーを用いた調査では回収に至らなかったが,飼育するキクガシラコウモリを用いた装置の検証等を行い,開発をほぼ終了することができた.また回収できたGPSロガーの飛行軌跡の分析から,コウモリが移動と停滞を繰り返していることが確認できた.コウモリは状況に応じて超音波の発声頻度を変化させることから,音声と軌跡を合わせることで,採餌の回数や場所,また探索区間などの状態分離が可能になる. また中距離のナビゲーションでは,水面を採餌場所(パッチ)として利用するモモジロコウモリを新たな対象種とし,マイクロホンアレイを用いたデータを計測した.パッチへの入出力タイミング,採餌回数,探索ルートなどを個体毎に採取でき,完全野生下でのこのような行動データは非常にめずらしく,最適採餌理論のモデル動物として有用であることを示せた.探索ルートの分析はまだ十分進めることはできなかったが,長距離ナビゲーションで見られたforay型の探索ルートが見られたことから,今後は採餌効率と探索ルートの関係についても検討を進める. 室内実験では,学習によるナビゲーションの変化について飛行軌跡と超音波の放射方向の計測から分析を進めた.今後はデータの増加と理論的な考察が必要である. 自由行動下のコウモリからの神経活動を記録する小型ニューロロガーの開発に着手したが,試作品を用いた検証まではスケジュール的に至らなかった.一方で,計測システムの構築と,対象種の選定や行動課題について検討を進めた.ユビナガコウモリが這いながらエコーロケーションする様子をビデオカメラと音声双方から計測し,行動中に音声の発声タイミングにいろいろと変化があることがわかった.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は昨年より開発している超音波イベントGPSロガーを用いた調査を福井県と北海道にて実施予定である.対象種は昨年と同様のキクガシラコウモリに加えて,新たにヤマコウモリにも装着を試みる計画である.また引き続き,北海道の調査地においてはモモジロコウモリの水面上での採餌行動をマイクロホンアレイを用いて計測を行う.パッチ内での3次元飛行軌跡と超音波の放射タイミングの多次元データを,当該新学術領域のデータ科学班と共同で分析を行うことを計画している.音と軌跡の多次元データが精度よく計測できる利点を活かした深層学習やその他のデータ分析手法を試みるためデータ数を増やし,コウモリの探索アルゴリズムの解明に向けた取り組みを進める.また昨年度から進めている音響データの解析から,個体内の採餌効率の変化やパッチの入出力タイミングの分析をさらに進め,論文投稿に向けた準備に着手する.キクガシラコウモリのGPSデータについては,データ数は少ないものの,新規性の高いうちに論文として投稿できるように準備を進める. 開発中のニューロロガーの試作機を用いた検証をジャービルやラットを用いて行い,小型化へのバージョンアップに向けての検討を進める.一方で自由行動(広いケージ内を這う)をするユビナガコウモリから,脳波や蝸牛マイクロホン電位などの生体信号の記録ができるシステムの構築を行う.超音波の放射方向を計測するための小型マイクロホンアレイシステムを組み込み,ビデオカメラと同期した音響行動の計測を行う.簡単な行動課題を自由行動下で行うコウモリに対し,音響データと脳波や蝸牛マイクロホン電位などの生体信号の同時記録を試みる.
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