研究領域 | 生物ナビゲーションのシステム科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06543
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
高橋 晋 同志社大学, 脳科学研究科, 教授 (20510960)
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研究分担者 |
苅部 冬紀 同志社大学, 研究開発推進機構, 准教授 (60312279)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 場所細胞 |
研究実績の概要 |
驚異的なナビゲーション能力を誇る動物は、地図を使わずにどのように迷わず餌場を見つけ、帰巣するのだろうか? 動物が特定の場所を通過したときに活動する脳神経細胞―海馬の場所細胞―を手掛かりとし、同時に体内外の情報を計測できれば、ナビゲーション機能が理解できるかもしれない。そこで本計画研究では、代表研究者がこれまでに培ってきた最先端のマルチニューロン活動記録法により、数百個の場所細胞活動を同時記録する。加えて、A01制御工学チームと連携することで、ナビゲーションに至る体内と環境の情報を多次元的に同時計測する。そして、それら場所細胞と体内外の情報を対応させることで、記憶を参照し目的地へ導く地図記憶参照型ナビゲーションの機能を分析する。更に、A02データ科学チームとの共同研究を通して、ナビゲーション行動を状態遷移モデルで表現し理解する。体外環境を動的に変化させる環境介入と、光遺伝学を活用した神経活動操作による神経活動介入を実施し、同定したモデルの妥当性を予測性能から検証する。この計測―分析―理解―検証サイクルを繰り返しながら、B01生態学チームとの共同研究を通し、野外や3次元空間にも一般化できるナビゲーション機能を解明する。 現在までに、本計画研究の核となる無線神経活動ロガーシステムを構築することができ、これを活用することで、生態学チームとの異分野融合研究を通じ、ナビゲーションする海鳥、マス、コウモリの脳神経活動を計測する環境が整った。また、A02データ科学チームとの共同研究では、ナビゲーション移動行動を解析することで、特徴的な移動行動を抽出する手法を確立することができた。更に、環境介入するための再構成可能迷路を開発し、特許を出願することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画研究では、生物ナビゲーションを理解し、その普遍的な応用を目指す本領域の目的達成に寄与し、神経科学だけではなく、生態学分野など関連分野の発展にも貢献するため、以下に示す4課題を設定し研究を実施した。 課題(1) の本年度までの目標は、「ナビゲーション移動行動中の動物から脳神経細胞活動を記録するシステムを開発すること」とし、無線神経活動ロガーを導入することで、実験室内だけではなく、屋外でも活用可能な無拘束な無線神経活動ロガーシステムを当初の計画通りに構築することができた。そして、その有効性を検証するため、実験室内でのラットやマウスを用いた実験だけではなく、B01依田と共同し、自然環境下でナビゲーション移動行動する海鳥やマスを対象とした実験を実施した。結果として、3羽中2羽の海鳥で手術を成功することができた。そして、粟島の湾内を歩行している海鳥の終脳から多数の神経細胞活動を記録することができた。B01依田分担牧口と共同したマスの実験においても、視蓋/終脳から光刺激に応答する神経細胞活動を記録することができた。 課題(2)では、「ナビゲーション機能の数理モデル同定」を目的としていた。A02前川と共同することで、神経細胞活動と移動行動を対応づけ解析した。A02前川が開発した深層学習法DeepHLを活用することで、移動行動状態を検出する手法を確立することができた。 課題(3)では、「環境・神経活動介入装置の開発」を目的として、今年度までの目的は、環境介入装置の開発としていた。迷路を構成する通路、センサ、可動壁、給餌器、トレッドミルなどの構成要素を自在に再構成可能な迷路を開発し、特許出願することができた。 課題(4)では、「3次元空間ナビゲーション機能の解明」を目的とし、B01飛龍が中心となり、超小型神経活動ロガーの開発に着手した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に構築した無線神経細胞ロガーシステムを活用し、課題遂行中のラット・マウスの海馬から場所細胞活動、局所脳波、動物の移動速度・加速度・ジャイロなどを同時記録し続ける。様々な場所細胞の活動パターンの差異を記憶課題の違いと対応させ、地図記憶参照型ナビゲーションの機能を地図記憶の変化から解明する。渡りや母川回帰など、動物が自然界で行う驚異的なナビゲーション機能を解明するためには、生態学の協力が欠かせない。そこで、B01依田と共同することで生態学と神経科学の異分野融合研究を実施する。歩行中の海鳥雛から脳神経細胞活動を計測し、頭の向きや移動速度等に関連する神経細胞活動を同定する。また、B01依田分担の牧口と共同することで、遊泳中のマスから脳神経細胞活動を計測し、移動行動に関連する神経細胞活動を同定する。 A02前川が開発した深層学習法DeepHLを活用することで、特定周波数帯の脳波パワーと移動行動との関連性を解析する。また、オプトジェネティクスによる神経細胞活動介入と移動行動との関連性を解析する。 B01依田と共同することで、帰巣する海鳥雛から脳神経細胞活動を計測し、ナビゲーション機能を神経活動から同定する。また、母川回帰ナビゲーションは、母川の臭い、地磁気などいくつかの原因があり論争が続いている。B01依田分担牧口らとも共同し、それらの環境要因と移動行動の両方に反応する脳神経細胞活動を計測・解析する。 本計画研究において環境介入装置として開発し、特許出願した再構成可能な迷路は、最大12平米内で迷路を構築することができるが、そのような広大なエリアで動物のナビゲーション移動行動を追跡することは難しい。そこで、迷路上を移動する動物を追跡するロボットカメラシステムを開発する。
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