研究領域 | 生物ナビゲーションのシステム科学 |
研究課題/領域番号 |
16H06544
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小川 宏人 北海道大学, 理学研究院, 教授 (70301463)
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研究分担者 |
安藤 規泰 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任講師 (70436591)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 神経科学 / 昆虫 / 行動学 / 脳・神経 / ニューロン |
研究実績の概要 |
本年度は,連携研究者だった安藤規泰氏を研究分担者に加えて,次の4つの課題についての研究を行った。 1)オープンフィールドにおけるコオロギ音源定位ナビゲーションの解析,2)聴覚仮想現実環境(Auditory VR)システムの開発とマルチモーダル化,3)誘引歌の音源情報をコードする脳内神経活動の計測,4)コウモリの探索超音波に対する回避行動ナビゲーションの解明に関する研究。 課題1)については,コオロギは誘引歌を受容してすぐに音源定位行動を起こすのではなく,突然音源に近付いていく行動(アプローチモード)を取ることがわかった。アプローチモードにおける音源への接近速度はモード前の行動に比べて有意に速く,進行方向と音源のなす角度は大きく減少していた。またアプローチモードに移る位置は,音圧に依存しなかったことから,音の強さだけでアプローチモードが開始される訳ではないことが示唆された。課題2)については,Auditory VR装置を用いて仮想空間上の音源へメスコオロギを定位させること成功した。さらに,視覚刺激と聴覚刺激を同時に提示することにより,音源定位行動の目標確定に視覚入力も用いられていることを明らかにした。課題3)については,遺伝子コード型カルシウムセンサの脳内発現には成功したが,明瞭な光学応答はまだ得られていない。しかし,電気生理学的計測により誘引歌に対する応答および歩行運動に関連する神経活動が記録された。課題4)については,コウモリ探索音波に模した高周波音刺激を気流刺激に先行して与えたところ,回避行動の距離や移動方向などが変化することを見いだした。また,胸部聴覚ニューロンが気流感覚器官である尾葉からの入力を受けることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1)では,ほぼ当初計画通り進捗している。課題2)では,当初計画していなかったVRシステムのマルチモーダル化により,生物ナビゲーションにおける複数感覚統合の重要性について,当初の予定を上回る研究成果が得られた。課題3)ではin vivoカルシウムイメージングについて技術的障害があるものの,電気生理学的手法によって予定していた結果は得られつつある。課題4)では,行動学的・生理学的な両側面で大きな研究成果が得られた。また,いずれの研究課題においても,当初計画通り本領域内のA02データ科学班と共同でデータ解析を行っている。さらに音場計測とシミュレーションはB01飛龍班と,VR装置の作製では公募研究A01岩谷班との共同研究も進めており,当初計画以上に領域内で連携した共同研究が推進できている。したがって計画全体としては,ほぼ予定どおりの進捗を達成していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,次の2つの課題についての研究を実施する。 1) 音源定位行動の環境介入実験 円形アリーナとVR装置上で聴覚環境を人為的に変化させ,音源定位行動に現れる影響を調べる。例えば,音源への接近に伴う音圧変化をなくしたり音源位置を接近中にシフトさせたりして,アプローチモードや目標探索モードにおいて,どのような聴覚情報をもとに行動が制御されているのかを明らかにする。 2) 多細胞神経活動デコーディングによる音源方位認識と運動制御に関与するニューロン群の同定 VR装置上で音源定位するコオロギの脳活動をカルシウムイメージングまたはシリコン多点電極で計測する。集団活動データから音源方位または運動速度や進行方向をデコードし、予測モデルの構成から音源方位を認識するニューロン集団と運動制御に関与する下行性ニューロン群を同定する。
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