研究領域 | グローバル秩序の溶解と新しい危機を超えて:関係性中心の融合型人文社会科学の確立 |
研究課題/領域番号 |
16H06548
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
石戸 光 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (40400808)
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研究分担者 |
落合 雄彦 龍谷大学, 法学部, 教授 (30296305)
池田 明史 東洋英和女学院大学, 国際社会学部, 教授 (30298294)
水島 治郎 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (30309413)
畑佐 伸英 名古屋経済大学, 経済学部, 教授 (40363791)
鈴木 絢女 同志社大学, 法学部, 准教授 (60610227)
松尾 昌樹 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (10396616)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 地域統合 / 関係性 / 政治経済 / 階層性 / 複雑性 / 民主主義 / ポピュリズム / 分断 |
研究実績の概要 |
政治経済的な地域統合を広く捉えて複数国家およびそれら内部の主体間の何らかの連携関係として認識し、地域統に関する関係性に着目した学理およびその検証を行った。学理面の概要として、地域統合はマクロ(グローバル)なレベルで「地域主義」(公式の自由貿易協定および実質的な国家間の連携の高まり)の機運の醸成とともに1990年代後半より顕著になってきたが、2010年代後半より地域主義からいわば一国主義(保護主義的、国内主体の利益を重視したポピュリズムを含む)が一国主義(保護主義的、国内主体の利益を重視したポピュリズムを含む)が隆盛するに至り、地域主義の揺らぎについては階層性および主体間の関係性の双方向的な関係性を重視した分析が必要である。 このような地域主義を巡る動向について、本計画研究では学理および地域主義の動向を横断的に分析するための各種のシンポジウムおよびセミナー・研究会を企画した。見出された論点として、地域統合は一種の「地域的公共財」として、構成する国家および国家内の産業・民族団体等に便益を提供するが、一方でそこに参加するためには「費用負担」をしなければならず、国家間および国家内の産業・民族団体の「多様性」の確保と地域主義としてまとまることによる「規模の経済」の活用の間にトレード・オフ的状況(どちらかを優先すれば、もう一方を犠牲にしなければならない側面)が存在することを確認した。そして便益と地域統合の便益と費用を巡る価値判断は認識レベルにおいて主観的・心理的なものであり、コミュニティーレベルの幸福度といった社会心理学的な観点も重要であることを研究活動により確認した。地域統合を構成する多様な主体の享受する「便益」よりも「費用」が上回ると認識される限り地域統合へのコミットは公式にも実質的にも低下し地域主義を取り結ぶ関係性はかなり容易に「破局」(カタストロフィ)へと至る点を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画研究では、政治経済的な意味での地域統合を中心としながらも、国家間の政治経済関係を広く捉え、その階層的・複雑性を帯びた特質について、分野横断的に研究を計画に沿って推進している。ミクロ的(地域・産業レベル)、メソ的(国家レベル)の事象(例えば保護主義な風潮)がよりマクロなレベルにおける地域統合の動向に大きく影響を与え、逆にそのような大域(マクロ)的な状況が、より下の階層における政治経済面での挙動に正負のフィードバック効果をもたらしている点を具体的な事例とともに示そうと努力を行った。平成29年度は上記のような学理の視点を踏まえた共同研究および個別研究を進め、セミナー、シンポジウム、研究会、および調査・分析活動を本格化させた(具体的な研究活動はサイトhttp://www.shd.chiba-u.jp/glblcrss/group_A02/A02_activities.htmlをご参照)。 得られた共同の研究成果は①グローバル関係学ブックレット『政治経済的地域統合 アジア太平洋地域の関係性を巡って』(石戸光(編著)、畑佐伸英(著)、渥美利弘(著)、韓葵花(著) 、三恵社、2017年)、②グローバル関係学ブックレット『政治経済的地域統合 アジア太平洋・中東・ヨーロッパの動向から』(A02の研究グループ共同にて編著、三恵社、2018年)および③千葉大学 公共研究第14巻第1号(2018年)にて『特集2:コミュニティーの幸福と公正―コミュニティー心理学と公共研究』掲載、となっている。 これらの研究活動および研究成果を踏まえ、複数のメディア(テレビ、ラジオ、新聞および一般雑誌)への情報発信を行い、公的諸機関(APEC、日本ASEANセンター、外務省、経済産業省、防衛省、法務省公安調査庁、参議院、千葉県警など)からの問い合わせを受けて、政策形成・治安維持のための情報提供も行った。
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今後の研究の推進方策 |
地域統合体の持つ階層構造に着目した学理をさらに発展させていく。研究体制のグループ化を継続し、(a)経済面(石戸、畑佐、松尾が担当)、(b)市民社会面(鈴木、水島)、(c)治安・犯罪面(落合、池田) にそれぞれ焦点を絞った3つの研究グループによる研究を相互連関的に遂行する。 (a)グループでは、宇都宮大学にて公的地域統合(TPP、EU、ASEAN)の役割と限界、中東諸国の石油と移民の実態を考察する国際シンポジウムを(松尾が主導)、タイのマヒドン大学ではASEANを中心とした地域統合に関する国際ワークショップ(石戸が現地滞在にて主導)を開催予定で、タイにては研究の主眼である地域統合のテーマに即して研究ネットワークを広げる。また松尾が2018年7月にブリスベンで開催されるIPSA(世界政治学会)に総括班として出す新学術領域のパネルに参加予定で、学理の構築に貢献していく。(b)グループでは、2017年2月に開催した国際シンポジウムの内容に分析を加え、研究成果として取りまとめていく。水島は難民問題およびグローバルな経済状況などの外的要因がEU(地域統合体)および各加盟国(国家主体)にいかなる影響を及ぼしているのかをポピュリズムとの関連で考察する。(c)グループでは、落合がアフリカの地域協力システムの有り様を他地域との比較の観点を視野に入れて分析し、池田がシリア内戦、イエメン内戦などに関連する中東の地域安全保障システム再編状況を学理に沿って分析する。 また横断的な活動としては、松尾が「移民難民横断プロジェクト」で、池田が「パーセプション横断プロジェクト」でそれぞれ中核的に参与しており、計画研究の研究内容を新領域全体の横断的研究に活用させる。上記(a)、(b)、(c)および横断的な研究活動を統合した研究論稿を可能な限り英語にて取りまとめていく。
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