研究領域 | 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 |
研究課題/領域番号 |
16H06553
|
研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
皆川 純 基礎生物学研究所, 環境光生物学研究部門, 教授 (80280725)
|
研究分担者 |
園池 公毅 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (30226716)
秋本 誠志 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (40250477)
|
研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
|
キーワード | 光合成 |
研究実績の概要 |
1.NPQ作動原理の解明 II ― 強光を当てた時にLHCSR3タンパク質が合成されqEクエンチングを引き起こすことは知られていたが、よく似たLHCSR1については、その存在こそ知られていたものの、よくわかっていなかった。そこで、通常の人工照明ではなく紫外線を含む照明でクラミドモナスを培養し、LHCSR1を蓄積させた状態でピコ秒領域での蛍光減衰過程の詳細な解析を行い、qEクエンチングが光化学系IIから光化学系Iへのエネルギー移動、および光化学系Iにおける光化学反応にて起こることを明らかにした。 2.強光シグナル伝達系の解明II ― 強光シグナル伝達系が概日リズムの影響を受けることは知られていたがその分子機構は明らかではない。そこで概日リズム変異株を解析し、強光シグナルと概日リズムの関連を明らかにした。これまでに単離された105のroc(rhythm of chloroplast)変異株の中から赤色光環境下で特に高いqEクエンチング能を持つroc75変異株に注目した。この赤色光環境下でROC75を欠失するとLHCSR3発現レベルが高かったことからROC75は赤色によって活性化されるLHCSR3の負の制御因子であることがわかった。また、青色光環境下ではクリプトクロムを欠損(pcry)するとROC75発現量が下がったことから、pCRYがROC75を正に制御することも明らかとなった。以上よりROC75は青色光受容体であるpCRYによって発現量が正に制御され、赤色光によって活性化される、LHCSR3の負の制御因子であることが判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究には、3つの柱がある。1)NPQ作動原理の解明、2)強光シグナル伝達系の解明、3)NPQの生理作用点の解明。このうち、本年度はすでに得られていた変異株を解析し、順調に2)の成果を出した。さらに次年度以降に向け、多数の新しい変異株の取得に成功している。1)については、これまで世界的に研究が進んでいなかったLHCSR1に光をあて、研究を推進したところ、思いがけず、そこに全く新規なNPQ機構が潜んでいることを明らかにした。これまではNPQ(qEクエンチング)は、光化学系IIにおける熱散逸であることが定説であったが、本研究により、過剰なエネルギーは光化学系IIから光化学系Iへと逃され、光化学系Iにて安全に光化学反応に使われていることがわかった。この反応を仲介しているのがLHCSR1であった。昔から、光化学系Iは光化学系IIと比較して効率の良い(無駄の少ない、蛍光を発しない)光化学反応を行うことは知られていたため、この反応は理屈に叶うものであったが自然界で実際に起きていたことを証明したのは初めてとなり、大きな成果となった。一方、NPQ生理作用点の解明については、実験系の改良に時間を要し、成果としては次年度以降に持ち越しとなったため、全体としてみれば、「おおむね順調に進展している」との評価とする。
|
今後の研究の推進方策 |
1.NPQ作動原理の解明 III ― 新しい光化学系II超複合体精製方法の開発、 および、これを用いたNPQ超複合体(PSII-LHCII-LHCSR)の精製。同超複合体のポリペプチド組成(AKTAmicro/ウェスタン解析)、色素組成(UPLC)、ポリペプチド架橋実験による相互位置解析等の生化学解析。 2.強光シグナル伝達系の解明III ―新規LHCSR遺伝子発現変異株の取得とその解析(NPQ活性、光合成機能解析、色素分析、LHCSR3およびLHCSR1遺伝子発現量およびタンパク質発現量解析。 3.NPQの生理作用点の解明 ― npq変異株の生理解析、細胞内代謝解析。野生株および各種npq変異株の集光収率解析、光阻害解析。異なる光環境で培養した野生株/新奇npq変異株の比較メタボローム/メタボロームによる細胞内代謝解析。
|