計画研究
1.NPQ作動原理の解明 IV ― NPQ作動原理の解明には、PSII-LHCII超複合体の構造情報が必須である。アンフィポールを応用したそのために重要な安定単離方法が前年度に確立された。本年度は、この技術を応用し、まず非イオン型アンフィポールを用い、クライオ電顕単粒子法によりクラミドモナスのPSII-LHCII超複合体の構造を解像度5.8Åで決定した。始めて10オングストロームを切ったそのC2S2M2L2構造からは、特にLHCIIのL三量体の結合様式や新たな周辺PSIIサブユニットの存在が明らかになった。更にイオン型アンフィポールを用いて解像度を3.4オングストロームに上げた結果、全てのクロロフィルの結合の詳細が決定され、緑藻のPSII-LHCII超複合体における励起エネルギー移動様式が明らかとなった。2.強光シグナル伝達系の解明IV ― 昨年度のLHCSR3遺伝子の発現制御に続き、LHCSR1遺伝子の発現制御を明らかにするため、luc遺伝子を用いたクラミドモナス発現レポーターアッセー系を構築し、LHCSR1の発現変異株を単離した。その結果、植物ではUV応答に関わるUVR8、植物では花成にかかわるCONSTANS、NF-YB等の変異株が得られた。詳しい解析の結果、まずUVR8が紫外線に応答し、これに植物では光形態形成応答の主要因子であるCOP1/SPA1 E3リガーゼが負に制御を受けること。LHCSR1およびLHCSR3はCONSTANS/NF-YB/NF-YC転写因子複合体によって転写を受けるが、これがCOP1/SPA1によって負に制御を受けていることが明らかとなり、LHCSR1の紫外線応答が解明された。
2: おおむね順調に進展している
本研究には、3つの柱がある。1)NPQ作動原理の解明、2)強光シグナル伝達系の解明、3)NPQの生理作用点の解明。本年度は昨年度の技術的なブレークスルーが起爆剤となり、1)の研究が予想外に大展開した、また2)の変異株の解析も昨年度とはまた別な方向に大きく進展し、1)、2)ともに当初の予想を大幅に超えて研究は進展している。一方、NPQ生理作用点の解明については、同分野で世界的な研究の流れが変わってきてり、実験系の改良に時間を重ねてきて、やっと目処がたったところであり、当初遅れ気味だった研究が予定に追いついた。全体としてみれば、「おおむね順調に進展している」との評価とする。
1.NPQ作動原理の解明 V:強光条件と弱光条件の植物チラコイド膜を用い、アンフィポール技術によりPSII-LHCII超複合体を調整する。双方の超複合体のNPQ能力を測定し、超複合体構造とエネルギー散逸機構の関係を比較検討する。緑藻PSII-LHCII-LHCSR3超複合体の構造解析。前年度始めて観察された緑藻PSII-LHCII-LHCSR3超複合体は収率が極端に悪かった。この収率向上を図り、構造解析を目指す。2.強光シグナル伝達系の解明V:強光条件と弱光条件のクラミドモナス細胞内カルシウム濃度のリアルタイムイメージングを行い、強光シグナルと細胞内カルシウム、特に細胞内カルシウムストアからのカルシウム発出との関連を明らかにする。3.NPQによる光化学系II保護機構の解明II:強光にさらされた緑藻細胞はNPQ機能がないと白化する。NPQ機能によりPSIIの光阻害は軽減されるが、強光によるPSIIの光阻害の結果白化がもたらされるのか、あるいはPSIIの光阻害と白化は別に進行するのか、明らかにすることにより、NPQの生理的作用点を明らかにする。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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