計画研究
変動する光環境下での光合成電子伝達活性の制御機構を解明するため、チラコイド・ルーメン酸性化によるフィードバック制御、光エネルギーの捕集の制御、および光化学系の光損傷・修復・構造に着目して研究を進めた。(1)ルーメン酸性化機構の理解のため、光化学系II (PSII)酸素発生系のプロトン輸送チャネルの同定を進めた。構造から推定されたプロトン輸送に関与するPsbA、PsbB、PsbC、PsbDサブユニットのアミノ酸を置換した葉緑体変異体を作出し、機能解析した。また、PSII表在性タンパク質 PsbPのアミノ酸の機能解析も進めた。(2) 構造からルーメン酸性化に伴いプロトン化すると予想されるシトクロムb6f複合体のPetA、PetC、PetD、PetGサブユニットの残基を置換した形質転換系を作出した。強光下での光合成電子伝達反応への影響を解析中である。(3)光化学系の光損傷・修復機構の解明のため、光化学系I(PSI)複合体の構造および分子集合因子Ycf3、Ycf4、Y3IP1を解明した。さらに、CGL71とPSA2の機能解析も進行中である。(4)PSII複合体の合成・光損傷・修復の機構を解析した。D1のW14残基の酸化修飾に関連して、Fに置換した変異体W14Fを作成した結果、強光感受性となりD1分解が促進された。この分解がFtsHに起因するかどうかを検証するため、W14Fをftsh変異体に導入した株を作成した。W14はPsbIとの相互作用が構造モデルで予測されたので、PsbIに変異を導入した株の作成も進めた。また、PSIIの構築に関わると考えられている因子の精製を行い、この因子の発現を一過的に抑制するRNAi株を作成し、 PSIIへ与える影響を調べた。また、PsbPとPsbQホモログの分子集合における機能を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
(1)PSIIの酸素発生系のマンガンクラスターからP680への電子伝達反応において、D1-Asn298がYZの酸化還元反応に伴うプロトンの受け渡しに重要であることを明らかにした。一方、D1-Asp61の側鎖の負電荷がプロトンの排出に直接関与する結果を得た。また、 マンガンクラスター近傍に結合するPsbPのループ4領域の役割について、再構成実験とクラミドモナス形質転換実験の両面から明らかにした。現在論文執筆中であるが、順調に進展している。(2)シトクロムb6f複合体のルーメン側の高いpKaをもつ側鎖の酸性アミノ酸を PetA、PetD、PetG上の4残基を同定し、それを酸性アミノ酸以外の残基に置換した変異株を作出した。強光下での光合成電子伝達反応に与える影響を解析中である。得られた変異体の解析は継続して進めなければならないが、研究は順調に進展している。(3)Ycf3とY3IP1がPSI反応中心の分子集合に、Ycf4はコア複合体の形成とアンテナ複合体(LHCI)の 結合に関与することを明らかにし、論文にまとめた。さらに、CGL71は好気条件下での反応中心の生合成に必須であることを明らかにした。PSA2の変異株を遺伝子編集法により作出中である。論文を発表し十分に研究が進展している。(4)FtsHとの相互作用因子EngAの同定とFtsH自身のリン酸化について解析が終わり、論文にまとめた。一方、D1の酸化修飾と分解の関連性は、高橋班との変異体作成、石北班との構造予測モデル、フランスIBPCのde Vitryらとの協力によるftsh変異体の導入が順調に進んだ。また、PSII複合体の構築の中間体の精製を進め、非常に純度の高い精製方法を確立し、中間体にpheophytinが結合していることを確認できた。今後の大きな展開が望める段階にあると言える。
(1)引き続きPSIIの酸素発生系で生成したプロトンをルーメンに放出するチャネルに関与するアミノ酸を同定する。特に、D1-Asp61を含む経路に着目して研究を進める。また、PsbPループ4領域の役割については、計算化学とFTIRの研究者と協力して、これまでの生化学と分子生物学的実験の結果の解釈を試みる。さらに緑色植物型以外の真核藻類の光化学系II膜表在タンパク質についても機能解明を進める。チャネルを改変した変異株の光合成機能に対する影響を物理化学的に解析する。(2)シトクロムb6f複合体の電子伝達活性を制御すると予想されるPetA、PetD、PetG変異株の解析を進める。強光下でルーメンが酸性化したときに電子伝達反応が受ける抑制に着目して調べる。(3)PSI複合体の分子集合に関わる因子でCGL71とPSA2の欠損株を用いて、複合体のサブユニット集合の全体像を明らかにする。また、アフィニティー精製したPSI複合体の高解像度の構造の解明をクライオ電顕により決定し、分子集合過程の解明の基礎データを得る。(4)D1分解機構の解明に集中して解析を進める。D1(W14F)と PsbI (S25A)変異株とftsh変異の解析ツールが整ったので、W14の酸化修飾の強光依存性を実証し、PSII複合体の中間体蓄積についてBN-PAGEなどで詳細に解析する。加えて、FtsHによる分解産物と考えられる低分子ペプチドについても、最近、興味深い結果が得られつつあるので、葉緑体内のペプチド蓄積に関する予備的実験にも着手する。PSII複合体の構築の中間体の精製方法が確立したので、精製スケールを大きくし、収量を改善する。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 2件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (44件) (うち国際学会 30件、 招待講演 14件)
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