研究領域 | 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 |
研究課題/領域番号 |
16H06554
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
高橋 裕一郎 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (50183447)
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研究分担者 |
坂本 亘 岡山大学, 資源植物科学研究所, 教授 (20222002)
田中 亮一 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (20311516)
伊福 健太郎 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (50359783)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 光合成電子伝達系 / プロトンチャネル / 光化学系複合体 / シトクロムb6f複合体 / 光阻害・光損傷修復 / フィードバック制御 / 葉緑体プロテアーゼ / タンパク質リン酸化 |
研究実績の概要 |
自然条件での変動する光環境下における光合成電子伝達活性の制御機構を解明するため、チラコイド・ルーメンの酸性化によるフィードバック制御、光エネル ギーの捕集の制御、および光化学系の光損傷と修復に着目して、以下の研究を進めた。(1)チラコイド・ルーメンの酸性化の機構を理解するため、光化学系II (PSII)酸素発生系からのプロトンの輸送チャネルの同定を進めた。特に、D1のN末から61番目のアスパラギン酸をシステインに置換した変異株( D1-D61C)がプロトン輸送活性を保持していることから、 D1-D61がプロトン輸送に関与する直接的な結果が得られた。(2)シトクロムb6f複合体活性がルーメンの酸性化により制御される機構を明らかにするため、PETC-Pro171Leu変異株を作出し電子伝達活性への影響を調べた。その結果、変異株では酸性化による活性制御(Photosynthetic Control)を受けなくなり、直鎖型および循環型電子伝達活性が低下することを示した。(3)光化学系I(PSI)複合体の反応中心サブ複合体の分子集合因子として葉緑体コードのYcf3とYcf4および核コードのY3IP1とCGL71/PYG7/Ycf37が重要な役割を果たしていることを明らかにした。(4)PSII複合体の合成および光損傷後の修復の分子機構の解明を進めた。損傷したPSIIのD1分解のトリガーとなるN末端側トリプトファン残基W14の酸化修飾が及ぼすPSIIの構造モデルとFtsHプロテアーゼによるD1分解の可能性について検討した。また、修復に重要な役割を果たすアセンブリー因子としてPPL1とPQL3およびOHP1複合体の分子レベルでの解析を進めた。損傷を受けたPSII複合体の分解と修復過程の解明を大きく進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)多数のPSII複合体のサブユニットのアミノ酸置換した形質転換体の解析から、プロトンの排出に重要な役割を果たしているアミノ酸残基の同定を進めた。特にD1-Asp61をCysに置換した形質転換体の解析と量子化学計算から、Asp61の側鎖の負電荷がプロトンの輸送に重要であることを明らかにできた。Cysはプロトン輸送には関与しにくい特性をもつが、Asp61のタンパク質の微環境はCysにプロトン輸送活性を与えることが証明できた。(2)シトクロムb6f複合体のPETC-Pro171をLeuに置換した変異株(PETC-Pro171Leu)を作出できた。さらに、変異株の電子伝達活性を解析した結果、この残基はルーメンの酸性化により活性を制御するPhotosyntheteic controlに重要な役割を果たしていることを明らかにできた。また、タグを融合した形質転換体を作出することに成功し、PETC-Pro171Leuの複合体をアフィニティー精製する方法を確立した。(3)PSI複合体の反応中心サブ複合体の分子集合に葉緑体コードのYcf3とYcf4および核コードのY3IP1とCGL71が協同的に関与することを明確にできた。とくにYcf3は反応中心サブユニットの最初期の分子集合過程、Y3IP1は反応中心の安定化、CGL71は酸素に対する感受性の高い過程の保護、Ycf4は分子集合中間体の安定化に関与することを解明した。(4)PSII光損傷からの修復過程におけるPSIIの分解・生合成の機構の解析が進んだ。PsbPのN末端配列機能とPsbPとPsbQホモログの新機能を報告し、光化学系IIの酸素発生におけるPsbPのリープ領域の機能解析も進展した。さらに、OHP1が複合体を形成し、重要な役割を果たしていることを明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) PSIIの酸素発生系で生成されたプロトンをチラコイド・ルーメンに放出するプロトンチャネルに関与するアミノ酸を同定するために作出した多数の変異株の解析を引き続き進める。特に、生化学的解析、電子伝達活性、量子化学計算によりアミノ酸置換がプロトンチャネル活性に与える影響を検討する。(2)Photosynthetic controlに重要であることが明確となったシトクロムb6f複合体のPETC-Pro171がどのように機能しているかを構造の視点から解明する。そのため、PETC-Pro171Leuの複合体のPetAにヒスチジンタグを融合した形質転換体を作出した。これからアフィニティーカラムクロマトグラフィーによりPETC-Pro171Leu複合体を精製し、結晶化し、X線構造解析を進める。(3)PSI複合体の分子集合に関わる因子でY3IP1とYcf4は安定で繰り返し使用されるが、Ycf3とCGL71は代謝回転が速く、1回もしくは数回の分子集合にしか使用されないことが明らかになった。そこで、この速い代謝回転がなぜPSI複合体の分子集合に必須であるのかという新しい視点から解明を進める。(4)D1分解がW14の酸化障害とPSIIの構造変化により促進されるモデルを検証するため、D1とFtsHとの相互作用を今後検証する実験を行う。クラミドモナスの変異体を用いた機能相補系に加え、ゲノム編集でもPsbPループ4領域の機能解析を試みる。加えて、緑色植物型とは異なるPSII膜表在性タンパク質を有する珪藻についても、それらの結合様式と分子機能を、ゲノム編集を用いた変異体作成を通して解析する。複合体の精製条件を最適化するとともに、構成が決定したOHP1複合体から先にエネルギー移動の測定を行い、部分的にでも複合体の機能を解明する。
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