研究領域 | 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 |
研究課題/領域番号 |
16H06555
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鹿内 利治 京都大学, 理学研究科, 教授 (70273852)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 葉緑体 / 光合成 / チラコイド膜 / プロトン駆動力 / サイクリック電子伝達 / イオンチャネル |
研究実績の概要 |
シロイヌナズナpgr1変異株は、シトクロムb6f複合体にミスセンス変異をもち、複合体がチラコイドルーメンの酸性化に対し感受性になっている。これにより、b6f複合体のチラコイドルーメン酸性化による制御が強化された。一方、pgr5変異株は、サイクリック電子伝達を欠損し、チラコイドルーメンの酸性化が充分ではない。二重変異株では、pgr5変異株で見られたPSIの光感受性が軽減された。しかしながら、pgr1変異により、PSIIの光感受性が増大した。このことから、b6f複合体における電子伝達制御は、PSIの保護には働くが、強くなり過ぎると逆にPSIIに傷害を与えることが明らかになった。そのため野生株において、b6f複合体における制御は最適化されており、PSIの光阻害を回避するには、サイクリック電子伝達によりPSIの電子受容体を確保することも重要であることが明らかになった。 葉緑体包膜およびチラコイド膜に局在するタンパク質のシロイヌナズナのノックアウトラインプールに対し、CO2フリー、1%酸素中でクロロフィル蛍光を指標に、光合成制御の異常な変異株を選抜した。また一晩、暗処理した植物で、光合成の誘導を見ることでも、変異株を選抜した。現在まで、12の遺伝子の変異株を候補として単離している。 C4植物のフラベリアにおいて、H+/K+アンチポーターKEA3が維管束鞘細胞に局在することを示唆する結果を得た。また維管束鞘細胞でKEA3の発現を阻害すると致死になるが、弱く阻害すると光合成の異常が起きることを観察した。この表現型は、次世代で確認が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ計画通りに研究が進展している。スクリーニングでは、あまり想定していなかった遺伝子の変異が関連する表現型を与えることが明らかになった。研究を行う変異株を慎重に選択する必要があるが、研究の守備範囲を少し広くし、プロトン駆動力制御に関わる周辺現象も理解する必要がある。 フラベリアの解析は、KEA3の生理機能が当初考えていた以上に重要である可能性が出てきた。抗体の特異性や形質転換体の育成など、慣れない材料で苦労したことが多く、次年度、さらに慎重にデータの再現性をみる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
シロイヌナズナを用いたプロトン駆動力の制御ネットワークの解明は、新規変異株を加えて、遺伝学、生理学によりさらに進展させる。KEA3の制御に関しても、形質転換体をもちいた解析を継続するとともに、新規変異株のなかからKEA3の制御に関わる遺伝子を選抜する。フラベリアのKEA3の維管束鞘細胞特異的発現を確認し、その分子機構を調べる。またノックダウン株の詳細な解析を行う。
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