研究領域 | 新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化 |
研究課題/領域番号 |
16H06556
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
久堀 徹 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (40181094)
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研究分担者 |
吉田 啓亮 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (40632310)
矢守 航 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (90638363)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | ATP合成酵素 / γサブユニット / εサブユニット / 酸化還元制御 / サイクリック電子伝達 |
研究実績の概要 |
本研究計画班では、①プロトン駆動力形成の理解に基づく機能強化、②プロトン駆動力消費過程の理解に基づくATP合成能力の向上、③還元力の再分配を主眼として、プロトン駆動力制御による光合成の再最適化を最終目標として研究を行っている。本年度は、これについて、下記の通り、研究を進めた。 ①イネの形質転換体を用いた研究によって、サイクリック電子伝達を構成するNDH依存経路とPGR5依存経路は、変動光環境における光阻害を軽減する役割があること、また、ヒメツリガネゴケ由来Flavodiironタンパク質をイネへ導入することによって、変動光ストレスに対する耐性を付与することを示した。さらに、陸上植物の変動光による光化学系I光阻害の回避に遠赤色光の補光が効くことを新たに示した。 ②前年度に確立したシアノバクテリアATP合成酵素の簡易精製法によって得た複合体をリポソームに再構成し、プロトン勾配とATP合成活の関係を評価した。また、この酵素の制御の詳細を明らかにするために阻害サブユニットであるεサブユニットの構造と機能の関係を生化学および1分子回転観察法により調べた。さらに、光合成生物のATP合成酵素特有の制御機構を理解するため、γサブユニットとεサブユニット部分複合体の結晶構造解析を行い、この構造に基づく生化学的解析を行った。 ③光合成の機能制御に重要な還元力の伝達経路の機能を解析することを目的として、チオレドキシン還元酵素からチオレドキシンを解した還元力フローの速度論的解析を進めた。また、シアノバクテリアの酸化還元調節を受けている酵素の制御の分子機構を詳細に調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下記の三項目に関する本年度の進捗状況は下記の通りである。 ①イネにおいて、サイクリック電子伝達の機能が少しずつ明らかになってきた。現在、リニア経路の律速要因であるシトクロムb6f複合体とATP合成酵素の発現抑制株の光合成応答を解析することによって、プロトン駆動力形成機構の解明に挑んでいる。また、独自に開発したスクリーニングによって、すでに光合成誘導過程において表現型を示す20系統以上の変異体を単離できたため、それらの候補遺伝子を同定している状況にある。 ②シアノバクテリアATP合成酵素複合体をリポソームに再構成し、バリノマイシン-カリウムイオンを利用してプロトン勾配を形成して、プロトン勾配、pHおよびATP合成活の関係を定量し、さらに高活性が得られる条件を検討している。阻害サブユニットεについては、阻害活性を酵素法及び1分子回転観察法によって調べ、分子を構成する二つの主要ドメインの機能の詳細を調べている。また、結晶構造解析によって得られたγサブユニットとεサブユニットの相互作用部位、および、γサブユニットにおける制御に重要な部位の機能解析を進めている。 ③還元力の再分配を理解するため、酸化還元制御の鍵タンパク質であるチオレドキシンに注目し、チオレドキシンへの還元力供給経路、チオレドキシンからの還元力供給経路、および、標的酵素の酸化に必須の因子の解析を進めた。その結果、葉緑体内で働く酸化に重要な新たなタンパク質、および、その酸化経路を発見した。
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今後の研究の推進方策 |
①光合成応答には遠赤色光が重要な役割を果たすことが分かってきたため、今後、電子伝達に関する複数の変異体を用いて、遠赤色光が光合成応答に及ぼす影響を包括的に解明する。また、これまでの変動光スクリーニングでは、T-DNAがランダムに挿入された変異体を使用してきたが、今後、理研の明賀研究員らとの共同研究によって、葉緑体膜タンパク質に関する変異体スクリーニングを行い、光合成機能強化の方策の確立を加速する。 ②シアノバクテリアから得たATP合成酵素複合体をリポソームに再構成する方法については、安定に標品を得られる条件をさらに検討し、公募班の曽我班に試料を提供して、1分子レベルでの実験に発展させる。また、栗栖班と協力してプロトン輸送経路の重要残基を予測し、プロトン輸送の変異株を作成して、その生化学的解析を行う。この実験を葉緑体に発展させるため、高橋班と協力して緑藻で同様の実験を行うための、形質転換実験を進める。 ③新規に発見した酸化因子について、これが葉緑体内でどのように働くのか、普遍性はあるのか、など生理生化学実験を推進する。シアノバクテリアでは、環境条件の変動に対して酸化還元制御系がどのように応答し、細胞内の恒常性および機能維持に重要な役割を果たしているのかを明らかにする。
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