計画研究
光合成機能再最適化の鍵を握るのは「プロトン駆動力の制御」である.プロトンは光合成電子伝達系の中で,1)光化学系IIの水分解に伴うプロトン排出経路と,2)シトクロムb6f複合体の還元型キノンの酸化に伴うプロトン排出経路からチラコイド膜ルーメンに向かって排出され,プロトン駆動力が形成される.次に,3)強い還元力を漏らさずフェレドキシンに伝える高効率電子伝達複合体の形成(光化学系I),さらに4) 光合成蛋白質のレドックス制御の観点からも構造解析をすすめた.光合成蛋白質のプロトン濃度勾配の制御およびプロトン移動には、蛋白質を構成する分子の酸解離定数pKaが密接に関係しているので、蛋白質中における物質のpKaを知ることが第一に必要となる。ところが、光合成蛋白質でプロトンや電子の授受を行っている分子(例えばキノン)の一部は、蛋白質中ではもちろん、(溶液中での)それ自身のpKa値すら分かってないものも多い。実験で測定することが困難だからである。そこでまず、実験すること無しに量子化学計算からpKaの値を計算によって算出する方法を確立した。この式をキノン分子に適用することで、種々のキノン分子の中でまだpKa値が計測されていない種のpKa値をはじめて算出することに成功した。大量に精製可能なサンプルについては,in silico構造解析と並行して,高分解能での構造解析が少ないシトクロムb6f複合体,解離会合をともなうため構造解析や相互作用解析に技術を要するフェレドキシン,チオレドキシンなどの電子キャリア蛋白質に関して,単結晶構造解析やNMRによる相互作用解析に取り組んだ.その結果,構造解析・機能解析に用いることの出来る組換え体を得る事に成功し,溶液での測定に関しては一部解析を終了した.
2: おおむね順調に進展している
in silico構造解析については,本研究課題の基礎中の基礎である物質のpKa計算手法を確立し、その有用性を、光合成において重要な役割を担っているキノン分子のpKaを算出することで示すことができた。同時に、光化学系IIのプロトン移動経路についても新たな知見を得ることができた。これらの成果は学術論文として国際誌に発表している。<A01><A02>の各班からの機能解析データを基に進める構造解析としては,鹿内班と連携してシトクロムb6f複合体でプロトン排出の会議を握るPetC蛋白質の組換え体調整を完了することができた.久堀班とは電子キャリア蛋白質周辺での電子伝達反応の構造基盤解明,レドックス制御系の構造・機能解析を進める事ができ,これらの成果の一部は学術論文として国際市に発表している.以上のことより、おおむね順調に進展しているといえる。
今後は,さらに各班から報告される変異体の機能解析実験と密接に連携することをめざし、特に、次の2つの課題について理論・実験を併用した構造解析を行う予定である。(1)光化学系IIの触媒部位である「MnCa錯体」付近のアミノ酸残基の変異体が他班で作られている。この変異体の構造を理論的に予測し、酸素発生反応に伴うプロトン放出に関する理論解析を行う。この結果を野生型と比較することで、変異体の実験結果に分子化学的な解釈を与え、MnCa錯体付近のアミノ酸残基の役割を明らかにする。(2)シトクロムb6f複合体では、強光下条件を検出するために、膜の片側(ルーメン側)のpH変化をモニターする機構が兼ね備えられていると考えられる。そのしくみを明らかにするための変異実験が他班で計画されている。そこで、どのアミノ酸残基を変異すれば効果的かを理論的に予測し、変異実験と組み合わせてpHモニターのしくみを分子レベルで明らかにする。(3)シトクロムb6f複合体のルーメン側で機能する電子伝達サブユニットの野生型と機能改変体双方の精密構造決定を進め,pHセンサー機能の構造基盤解明を進める.(4)レドックス状態を可視化するツールや,光合成の調節機能を司るレドックス制御蛋白質の役割を原子構造の基づいて理解出来るよう構造解析・相互作用解析を進める.
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 図書 (1件)
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