研究領域 | 人工知能と脳科学の対照と融合 |
研究課題/領域番号 |
16H06564
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田中 啓治 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (00221391)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 認知制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、ヒトの認知機能が環境に適応して動的に変化するメカニズムを研究している。例えば、色を表す単語の文字インク色を答えるストループ課題では、自然に起こる文字を読む反応が、課題で指示されたインク色を答える反応に干渉する。文字の色と単語の意味が一致しない不調和試行では調和試行に比べて反応時間が長い(競合コスト)。また、調和試行に続く試行に比べ、不調和試行に続く試行での競合コストは小さい(調和シーケンス効果)。従来は、調和シーケンス効果は、不調和試行での反応競合の経験の結果次試行では認知制御(インク色への集中)のレベルが上がるという競合モニター仮説により説明されてきた。本研究では、前試行で励起された反応セットの影響が次試行まで残るという受動的な過程を含めたより総合的な考えを提案しつつある。 令和1年度は、経頭蓋直流電気刺激による局所脳活性操作が調和シーケンス効果に与える影響を調べた。左右に並んだ5個の矢印を刺激とするフランカー課題を用いた。課題は中央の矢印の方向への反応を求めるが、これに左右の矢印が影響を与える。陰極刺激で持続的に外側前頭前野を抑制すると調和シーケンス効果が増加した。調和シーケンス効果の増加は調和試行に続く試行における競合コスト増加あるいは不調和試行後の試行における競合コスト減少で起こりうるが、外側前頭前野抑制の効果は調和試行後の試行における競合コスト増加で起こっていた。競合モニター仮説によれば、外側前頭前野の抑制は不調和試行に続く試行での競合コストを増大させるはずであるので、我々の結果は競合モニター仮説で説明できない。しかし、外側前頭前野の主要な働きがトップダウン的にタスクを維持することにあったと考えると説明できる。陰極刺激でこの働きが抑制されると、調和試行の間に周辺の矢印が反応を誘導する反応セットが自然に育ち、次試行における競合コスト増大になって現れる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プログラムは全体として順調に進んでいる。心理物理学的実験と高分解能fMRI実験の組み合わせによって、規則に従って複数の可能性の中から1つを選択する決定のメカニズムの解明を、特に以前の選択で用意された反応セットの影響に焦点を当てて、目指している。2016年度は、前試行で作成した反応セットが現試行の課題実行に大きな影響を与える色―方向反応パラダイムを作成した。2017年度は、このパラダイムでfMRI実験を行った。 2018年度は、新しい版のMVPAサーチライト法を用いて詳細な解析を行った。解析の結果は、前頭眼窩皮質が、前試行で引き起こされた反応セットの経験を次の試験での制御において処理する過程において重要な役割を果たすことを示しており、新しい認知制御の脳回路を示した。2019年度は、フランカー課題を用いて経頭蓋直流電気刺激による局所脳活性操作が調和シーケンス効果に与える影響を調べ、フランカー課題における外側前頭前野の主要な働きがトップダウン的にタスクを維持することにあることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、fMRI実験の結果をさらに分析する。特に、視覚刺激や反応時間の違いを反映した反応パターン成分を除外することで、一致条件の識別に関連する脳活動をより正確に抽出する。
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