研究領域 | 人工知能と脳科学の対照と融合 |
研究課題/領域番号 |
16H06566
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研究機関 | 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所 |
研究代表者 |
五味 裕章 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所, 人間情報研究部, 主幹研究員 (40396164)
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研究分担者 |
竹村 文 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (90357418)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 潜在的感覚運動情報処理 / 視覚運動解析 / モジュレーション / 学習・適応メカニズム |
研究実績の概要 |
本研究では,感覚情報によって無意識に駆動される「潜在的な感覚運動生成」の情報処理のプロセス,および自己運動感覚とのインタラクションを,運動学的・心理物理学的手法,電気生理学的手法,計算論的モデリングなどを組み合わせて明らかにし,随意的・潜在的運動の統合学習モデルに結び付ける基礎知見を明らかにすることを目標としている. 視覚運動誘発性の腕応答(MFR)に関して,「姿勢外乱に対する腕運動修正」という作業仮説に基づき,昨年開始した姿勢安定性に依存したMFR調節の実験を引き続き行なった.その結果,不安定環境ではMFRが有意に増幅され,また顕在的な知覚応答課題では同様の効果は観察されなかった.この結果より,知覚情報処理系とは異なるレベルで,潜在的情報処理が合理的に調節されていることが示された.ヒトのモデル動物であるサルを用いて潜在的感覚運動情報処理の解明を試みる研究に関しては,視覚運動解析に関わるMT/MST野の不活化破壊実験結果の再解析,および神経活動・運動計測統合システムの構築,サルのタスクトレーニングを進めた. 感覚情報の予測過程と誤差の帰属過程に関しては,昨年度の予備的検討を踏まえ,オプティックフローに基づく無意識的な歩行速度の調節に着目し,その距離依存性を様々な視覚条件下で調べた.その結果,視覚的な歩行速度の調節は,周辺対象の距離変化に対しロバストであるが,視覚情報の奥行き手がかり依存であることが新たに示された.また,視覚フィードバックが体性感覚情報処理の誤差帰属過程に与える影響を調べるため,新奇の視覚フィードバックを与えた運動における長潜時の伸張反射変化を調べた.その結果,従来は視覚入力とは切り離されて考えられていた体性感覚反射応答が有意に減弱することが明らかになり,比較的短潜時の反射生成においても,体性感覚・視覚を融合した高度な予測・誤差帰属の情報処理が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトを対象とした心理物理実験および運動実験に関しては,実績に記載の通り順調に結果が出てきており,対象とした潜在的な感覚運動生成情報処理のメカニズムに迫りつつある.実績に記載した複数の結果に関しては,現在論文を執筆中である.また,眼球応答系とは異なる腕応答(MFR)の視覚刺激特異性に関しても,実験室実験のモデル解析や,新たに自然統計量を基にした斬新な仮説を考案し,現在検証するための実験を組み立て始めている.平成30年度からポスドクも着任したため,さらに研究を加速していく.モデル動物を用いた研究に関しては,視覚運動解析の座とされるMT/MST野について,不活化破壊実験の結果について再解析をすすめた.ただし,新たな実験システムの導入とニューロン活動計測システムとの統合において,ノイズ対策やプログラム改変・開発に時間がかかってしまい少々進捗が遅れている.到達腕運動タスクのトレーニングは進めているため,今後加速して実験を進めていく予定である.
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今後の研究の推進方策 |
感覚情報によって無意識に駆動される「潜在的な感覚運動生成」の情報処理のプロセスとして,視覚情報により駆動や変化する運動学的現象のメカニズム解明を進め,これまでに興味深い実験結果が得られてきた.今後それらの論文化を進めると共に,次の4点を強化させて研究推進を図っていく. 1.新ポスドク採用:視覚運動誘発性の腕応答(MFR)と眼球運動(OFR)の刺激特異性の違いについて新たに提案した仮説について,新たに着任した新学術研究専任のポスドクを中心に実験・解析を行う体制を構築し,研究を前進させる.また動物を用いた電気生理実験研究に関して,新たに着任した新学術研究専任のポスドクにも刺激作成や解析に参加してもらい,生理学者だけでは時間を要する問題解決を素早く行う体制を整える. 2.他プロジェクトとの戦略的交流推進:視覚運動系の応用的側面に興味を持つ他の研究プロジェクト(CREST)とも協力し,MFRの脳情報処理メカニズムを説明する従来からの対立仮説について,新たな実験により明確な検証を示すことを目指す. また,本新学術領域の機械学習チームとの連携を強め,機械学習的な方法を用いて歩行速度調節を学習させるという構成論的手法にチャレンジし,視覚による歩行速度推定に必要な刺激までの空間距離表現の問題を検討していく.また,本新学術研究のロボット研究チームと,視覚運動制御の有効性に関して,実際のロボットによる構成的検証の方向性を探っていく. 3.実験パラダイムの方向修正:潜在的な情報処理における帰属問題を検討する題材として,新たに振動刺激に対する感覚情報処理に関する問題を扱う.ある特性をもつ非対称振動刺激は牽引知覚を生ずるが,皮膚-運動反射系の関与の可能性がある.この可能性を検証することにより,潜在的運動の外部要因への帰属の可能性について検討を行う.
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