研究領域 | 人工知能と脳科学の対照と融合 |
研究課題/領域番号 |
16H06567
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
松本 正幸 筑波大学, 医学医療系, 教授 (50577864)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | ドーパミンニューロン / 前頭眼窩野 / 側坐核 / 意思決定 |
研究実績の概要 |
ドーパミンニューロンは報酬に関連した情報を伝達する神経系として注目されている。一方、研究代表者らの最近の研究は、ドーパミンニューロンがこれまで考えられてきたような報酬情報を伝達する一様な集団ではなく、報酬情報を伝達するグループと、報酬に限らず、罰刺激など、動物の行動にとって重要な刺激のsalience(顕著性)に関わる情報を伝達する少なくとも2つのグループに分かれることを報告した。本研究では、このように多様なドーパミン神経シグナルの役割を明らかにすることを目的とする。これまでに、2頭のマカクザルに行動抑制課題と価値に基づく意思決定課題を訓練し、サルが課題をおこなっている間に、ドーパミンニューロン及びドーパミンニューロンから投射を受けるドーパミン関連領域から神経活動を記録した。平成30年度は、特に意思決定課題において、ドーパミンニューロン、前頭眼窩野、側坐核から神経活動を記録し、それぞれの領域のニューロンが、報酬価値、選択行動、そしてその組み合わせに関係した情報をコードすることを明らかにした。報酬価値と選択行動の組み合わせをコードするニューロンとは、たとえば、選択した選択肢の報酬価値はコードするが、選択しなかった選択肢の報酬価値はコードしないニューロンのことである。更に、ニューロンがコードするそれぞれの情報の時間経過を解析すると、まず価値情報がコードされ、次に報酬価値と選択行動の組み合わせ、最後に選択行動の情報がコードされることが明らかとなり、価値情報から選択行動に至る情報の変換過程を観察することができた。特に重要な点として、前頭眼窩野よりもドーパミンニューロンでこの変換が早く生じており、ドーパミンニューロンが価値情報を選択行動に変換する過程に重要な役割を果たしていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では多様なドーパミン神経シグナルの役割を明らかにしようとしているが、意思決定課題を用いた実験にとり、すでに、これまで報告されていない“選択行動(どの選択肢を選ぶのか)”に関わる情報をドーパミンニューロンが伝達していることを見出した。また、特に価値に関わる意思決定については前頭眼窩野の重要性が指摘されているが、ドーパミンニューロンにおいてより早く価値情報から選択行動への情報変換が生じていることが明らかになった。現在、このデータを論文としてまとめているところであり、更に、ドーパミンニューロンの神経シグナルと前頭眼窩野のシグナルの因果関係、それぞれの神経シグナルと意思決定の因果関係を明らかにするための実験準備が進行中である。そして、行動抑制課題を用いた実験では、黒質-線条体ドーパミン神経路が行動抑制の制御に重要な役割を果たしていることを世界に先駆けて論文として発表することができた。以上から、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、意思決定課題を用いた実験では、ドーパミンニューロン、前頭眼窩野、側坐核から神経活動を記録し、それぞれの領域の神経活動が価値情報と共に意思決定に関わる情報を持つことを明らかにした。今後はさらに解析を進め、そのほかの情報(たとえば“選択の不確かさ”)をコードしている可能性についても検証を進める。また、3領域の神経シグナルとサルの意思決定の間の因果関係や、3領域間の神経シグナルの因果関係を調べるための実験を実施する。行動抑制課題を用いた実験でも、黒質-線条体ドーパミン神経路が伝達するシグナルと、行動抑制の能力との因果関係を調べる実験を計画している。
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