研究領域 | 人工知能と脳科学の対照と融合 |
研究課題/領域番号 |
16H06570
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
中原 裕之 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, チームリーダー (10312282)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 計算神経科学 / 認知神経科学 / 意思決定 / 社会行動 |
研究実績の概要 |
本研究は「脳内他者を生かす意思決定の脳計算プリミティブの解明」を目指している。脳内他者を生かす意思決定とは、端的には「脳内他者を用いた他者予測」と「その予測を用いた適切な意思決定」である。この2つの脳計算プリミティブ(基本要素)の解明である。これらの機能は、社会認知でいう「心の理論」――他者の心や意図を推測して、自らの行動に生かす――の土台となる。他者のいない状況での脳計算(価値意思決定)を「自己システム」の土台とし、脳内他者のシミュレーションを要する価値意思決定を「自己システム+(脳内)他者システム」と捉えることで研究を進めた。この2つの基本要素の神経基盤と脳計算を明らかにするために、ヒトfMRI実験とそのデータを脳計算モデルを利用したモデル化解析することで、理論と実験の融合研究を推進しようとしている。予備的研究は着実に進んでいる。たとえば、行動レベルでは「脳内他者を用いた他者予測」の難しさに応じて、「その予測を用いた適切な意思決定」が変化していることを見出している。また脳活動においては、この「脳内他者を用いた他者予測」に対応する脳活動、そして「その予測を用いた適切な意思決定」の脳活動を見出している。さらには、この両者の関係が、「脳内他者を用いた他者予測」の難しさによって変化することも明らかにできつつある。すでに、これらの成果の一部は、国内のワークショップなどや、また国内外での学会でも報告している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究の実験(課題1)の主なデータを取得すること、データ解析の概ねの道筋をつけることを目指して研究を進めてきた。その進捗状況を述べる。この課題1の着想の根本は、「通常の(自己報酬にかかわる)価値意思決定」を基礎に、「他者の価値意思決定のシミュレーションと予測」を押さえたうえで、「その予測を生かすことが必要な自己報酬の価値意思決定」の脳計算を調べることにある。この3つを調べるために、課題1は自己試行、他者試行、メイン試行で構成されている。自己試行では、各選択肢の報酬の量は、その試行の最初に教示された色の数字である。一方、バーの傾きは報酬確率を表す(図参照)。他者試行では、被験者は他者の行動を予測し、それが当たれば固定報酬を得る。自己試行と異なり、他者の報酬量はいつも各選択肢の上部の数字となる(自己選択課題と異なる)。より重要なのは、他者にとっての傾きが表す報酬確率は、自己試行の時の傾きー確率マップとは異なることにある(被験者には事前に告知)。そしてメイン試行では、被験者の報酬量は色に依存せずに、他者の選択に依存する。他者は他者試行同様の選択をする一方で、その他者が選ぶ選択肢では、被験者の報酬量は下部の数字になり、他方の選択肢では上部の数字になる。したがって、このメイン試行では各選択肢の被験者にとっての価値は、他者が選ぶ選択肢に依存する。すなわち、他者の行動を予測して自らの行動選択をする必要がある。この課題1を用いてヒトfMRI実験を進めている。主なデータは概ね取得できた。また解析の予備的結果も良好で、たとえば、メイン試行で、他者予測の難易度において、被験者の行動選択のしかたが変わることを既に確認している。
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今後の研究の推進方策 |
今後、モデル化解析を徹底していくことで、「他者の価値意思決定のシミュレーションと予測」がどのように「その予測を生かすことが必要な自己報酬の価値意思決定」が実現されるかを、その情報処理と神経基盤の関係を明らかにしていく。この関係を明らかにするためには、この二つの要素を結ぶ計算モデルを精緻にしていくことが必要である。たとえば、複数の仮説――すなわち複数の計算モデルの候補が考えうるが、それらを行動データへの適用する中で、尤度を比べ、かつモデル変数を勘案するモデル選択を用いながら、同定していく必要がある。その上で、脳活動との対比を順次進めていくことになる。
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