研究領域 | 人工知能と脳科学の対照と融合 |
研究課題/領域番号 |
16H06571
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
坂上 雅道 玉川大学, 脳科学研究所, 教授 (10225782)
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研究期間 (年度) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 前頭前野 / 推論 / モデルベース / モデルフリー / サル / ウイ / カテゴリー / ファイバーマイクロスコピー |
研究実績の概要 |
我々はこれまで、経験したことを再現するモデルフリー機能と、経験に基づきながらも、それらを組み合わせることにより、全く新しい環境にも柔軟に適応できるモデルベース機能が、脳でどのように実現されているかについて調べてきた。そのために、推論課題遂行中のサル前頭前野外側部、並びに大脳基底核線条体から、単一ニューロン活動の記録を行い、前者が大脳基底核線条体、後者が前頭前野で実現されていることを明らかにした。平成28年度は、モデルフリー機能とモデルベース機能がどのように脳内で相互作用しているかを調べるために、ウイルスベクターの2重感染を使って2つの領域間の情報伝達を遮断するための実験を行った。この実験では、サルの前頭前野に、Cre依存的な人工受容体(DREADD)を発現させるAAVウイルスベクターを感染させ、その投射先である大脳基底核線条体に、逆行性に軸索をさかのぼってCreを運ぶ別のレンチウイルスベクターを感染させた。DREADDを発現したサルが、非対称性報酬遅延反応課題を遂行している最中に、クロザピン-N-オキシド(CNO)を静脈から全身投与することにより、前頭前野外側部-線条体にこの回路の活動を選択的に遮断し、その行動の変化を調べるとともに、神経活動の記録を行った。行動的には、CNOの投与は、短期記憶には影響が見られなかったが、特に、小報酬試行での正答率に有意な低下が見られた。運動自体には変化が見られなかったことから、この回路が遮断されることによって、報酬予測に伴う行動の適切な制御ができなくなったと考えられる。神経活動の記録からも、このような結論が裏付けられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ニホンザルを被験体として、意思決定の脳メカニズムを明らかにすることが目的である。前述したように、経験したことを再現する形で行動選択を行うモデルフリー機能は、主に大脳基底核線条体の働きで実現されており、外部環境の内部モデルに依拠しながら柔軟な判断を可能にするモデルベース機能は、主に前頭前野が実行していることは、すでに明らかにしてきた。昨年度は、モデルフリー、モデルベースの二つの機能を担う、大脳基底核線条体と前頭前野がどのように相互作用しているかを明らかにするために、ウイルスベクターの2重感染により、前頭前野外側部の線条体投射ニューロンにDREADDsを発現させ、DREADDsをCNOによって活性化させることにより、前頭前野から線条体への入力を遮断し、行動・神経情報の伝達の変化を観察した。さらに、前頭前野の推移的推論機能がどのような神経メカニズムで実現されているかを明らかにするために、推論課題をサルに学習させる訓練も開始した。
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今後の研究の推進方策 |
前頭前野における推移的推論機能の神経メカニズムを明らかにするために、推論課題遂行中のサルの前頭前野外側部から、ファイバーマイクロスコピー法により、数十個のニューロン活動の同時記録を行うことを計画している。推論課題では、複数刺激のメンバーからなるカテゴリーを学習することで、カテゴリーメンバーの間に関連情報(報酬量)が敷衍していく過程をファイバーマイクロスコピー法でカルシウムイメージングにする。カテゴリーに関わるニューロン群が推論時にどのように活動するかを解析することにより、どのように前頭前野外側部の神経回路が推論を可能にしているのか明らかにする。平成29年度は、推論課題遂行中の行動を解析することにより、サルがカテゴリー情報を使って推移的推論を行っていることを明らかにする。また、ファイバーマイクロスコピーの試験的導入も行い、方法の確立を目指す。
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